組織として複数のプロジェクトをいかにマネジメントしていくか?~ プログラムマネジメントの重要性とその実践 ~

目次

  1. 企業を取り巻く状況とプログラムマネジメント
  2. プログラムマネジメントの実現目標
  3. プログラムマネジメントの実現アプローチ
  4. まとめ

1.企業を取り巻く状況とプログラムマネジメント

近年、日本企業を取り巻く環境は急速に変化しており、デジタル技術の進展やグローバル化、さらには働き方改革など、さまざまな要因が企業経営に影響を与えている。
このような状況下で企業が生き残り、成長するためには、従来の延長線上で変革を行うだけでは不十分であり、より大規模で複雑な改革プロジェクトが必要とされている。
 
たとえば、トヨタ自動車では全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しており、生産現場とIT部門が連携した大規模プロジェクトが複数同時に進行している。
つまり、単一の改革プロジェクトだけではなく、複数のプロジェクトが同時進行する状況が増え、これらを統括する形のマネジメントが極めて重要な役割を果たすようになってきているのだ。
 
企業がこうした変革をリードし、複雑化するプロジェクト間の連携と最適化を推し進めるためには、これまで以上に高度なスキルが必要となっている。
このように複数のプロジェクトを管理する手法は、プログラムマネジメント、あるいはPgMO(プログラムマネジメントオフィス)として知られており、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)と並んで認知されつつあるが、まだPMOほど広く浸透していないのが現状だ。
 
プログラムマネジメントとは、複数のプロジェクトを1つのプログラムとして統括し、企業や組織の戦略目標を効果的に達成するための管理手法だ。
しかし、企業においては、異なる目的を持つ複数のプロジェクトを同時に管理しなければならないケースも多く見られる。
たとえば、システム部門では、保守運用中の複数システムを並行して改修や追加開発し、それらのマネジメントを行う状況がよくある。
本記事で取り上げるプログラムマネジメントは、このように1つの組織に関連する複数のプロジェクトを管理することも視野に入れて論じる。

2.プログラムマネジメントの実現目標

では、プログラムマネジメント(PgMO)では、何を実現させる必要があるのか。
当社は、以下の5つを実現させることが、プログラムマネジメントであると定義している。
 
◆プログラムマネジメントの5つの実現目標
(1) 戦略目標との整合 ・・・ 目標達成による効果最大化
(2) プロジェクト間関係の整理 ・・・ 目標達成による効果最大化
(3) プログラムマネジメントルール整備 ・・・ 効率運営・意思決定の迅速化
(4) プロジェクトマネジメントルール整備 ・・・ 効率運営・コスト削減
(5) プロジェクトナレッジの共有 ・・・ 効率運営・人材育成

図1:プログラムマネジメントの5つの実現目標

図1:プログラムマネジメントの5つの実現目標


(1)戦略目標との整合 ・・・ 目標達成による効果最大化
プロジェクトの遂行においては、各プロジェクトが1つの目標に向かって整合しているかが重要です。
たとえば、新しいサービスのリリースに向けた複数プロジェクトのプログラムの場合、商品開発、営業プロモーション、業務組織の立ち上げ、システム開発のすべてが円滑に整合しているかどうかが鍵となる。
さらに、社内の異なる組織をまたぐプログラムでは、個別の利害関係が発生することも多いため、プログラム全体を俯瞰し、客観的に確認できる第三者の視点を取り入れることが望ましい。
 
(2) プロジェクト間関係の整理 ・・・ 目標達成による効果最大化
戦略目標との整合が「縦」の整合であるとすれば、ここで述べるのはプロジェクト間の「横」の整合だ。
これは、各プロジェクトの優先順位やタスク間の依存関係、またスケジュールの依存関係を事前に把握し、突発的な事態に備えることを意味する。
例えば、1つのプロジェクトで作業が遅れた場合、その遅延が他のプロジェクトに影響を及ぼし、一時的に作業が停滞することがある。
そのような状況では、停滞している人的リソースを別のプロジェクトの支援に振り分けるといった対応が必要となる。
このように横の整合を事前に取ることで、プロジェクト全体のスムーズな進行が期待でき、企業全体の戦略目標達成に向けたリスク管理が強化される。
 
(3) プログラムマネジメントルール整備 ・・・ 効率運営・意思決定の迅速化
プログラム全体を把握し統制するためには、どのようなルールを設定し、各プロジェクトに実施してもらうかが重要だ。
具体的には、報告ルール、会議体のルール、エスカレーションのルール、進捗管理のルールなどが挙げられる。
ただし、プロジェクト側から見ると、これらのルールは追加のマネジメント作業として負担になる場合もあるため、目的を明確にし、できるだけ負担を軽減した形でマネジメントを進めることが求められる。
適切なルールを設計することで、プロジェクト全体の進捗や課題を一元管理し、組織全体の目標達成に向けた統制が効果的に機能する。
 
(4) プロジェクトマネジメントルール整備 ・・・ 効率運営・人材育成
プロジェクトごとにその運営方法を完全に委ね、プログラムマネジメントルールのみを設定する方法もあるが、個々のプロジェクトに対して適切なマネジメントルールを整備することで、組織全体としての品質向上や業務の効率化につながることが期待できる。
ルールを明確にすることで、各プロジェクトが統一された基準で進行し、全体のパフォーマンスの向上へ寄与することが期待できる。また、どのプロジェクトに行っても同じルールが適用されていれば、その組織に所属する人材の早期育成も可能になる。
 
(5) プロジェクトナレッジの共有 ・・・ 効率運営と組織成長の実現
各プロジェクトでは、日々さまざまな課題が発生し、その解決が繰り返されている。
それらの経験は、他のプロジェクトでも参考になる場合があり、この経験をナレッジとして共有・横展開することで、プロジェクト全体の効率化やリスク管理の向上を促進し、組織全体の競争力を高め、プログラム全体の生産性向上につながる。
また、終了したプロジェクトにも有用なナレッジが蓄積されているため、これらの知見を効果的に活用することも重要だ。

3.プログラムマネジメントの実現アプローチ

ここまで、企業におけるプログラムの特徴やプログラムマネジメントで達成すべき目標について述べてきたが、具体的にはどのように進めていくべきなのか。
当社は、プログラムマネジメントを迅速に立ち上げるために、以下5つのアプローチを採用している。
 
◆プログラムマネジメントの5つの実現目標
A) マネジメント現状分析
B) 課題認識・施策立案
C) マネジメント改善
D) マネジメントオペレーション&モニタリング
E) ナレッジ共有

図2:プログラムマネジメントの5つのアプローチ

図2:プログラムマネジメントの5つのアプローチ


A) マネジメント現状分析
前述した5つの実現目標に関して、プログラムの現状を分析する。
これは、プログラムに関する資料の確認や関係者へのヒアリングを通じて、現状を明らかにする作業である。
もしプログラムの立ち上げ段階からの対応が必要となる場合は、現状分析に代えて、プログラム企画書の作成や、プログラム立ち上げ・計画書の作成を行っていく必要がある。
 
B) マネジメントオペレーション&モニタリング
現在のプログラムマネジメントの運用(オペレーション)およびモニタリング業務を遂行する。
現状分析や課題認識、施策立案に基づくプログラムマネジメントの変更を、適時反映していくことで、運用の改善と適切なモニタリングが確実に実施される。
 
C) 課題認識・施策立案
現状分析の結果、現在のプログラムにおける問題点が明らかになる。
これらについて、重要度、影響度、解決のしやすさなどを基準に優先順位を付け、課題として整理する。
その後、具体的な解決策を検討し、施策を立案する。
 
D) マネジメント改善
課題と施策に基づき、段階的にマネジメントオペレーションの改善を進める。
これは、個別のマネジメント作業レベルの改善(例:課題起票ルールの変更)や、マネジメントプロセス全体の改善(例:会議体数の改廃、課題管理フローの変更など)を含む。
 
E) ナレッジ共有
個別プロジェクトで発生した課題やその解決策、運営に関するノウハウは、他のプロジェクトにとっても有用な情報となる場合が多くある。
これらのナレッジには、現在進行中のプロジェクトから得られたため迅速な共有が求められるもの(プログラム全体の生産性向上に直結するもの)と、終了したプロジェクトのナレッジ(組織や人材の育成に役立つもの)の2種類がある。
いずれの場合も、ナレッジの共有にはリーダーシップが必要であり、PgMOがその役割を果たす。

4.まとめ

プログラムマネジメントは、企業の成長戦略を支える強力なツールだ。複雑なプロジェクトを効率的に管理し、リソースを最適化し、全体の成功を導くためには、プログラム全体の整合性と依存関係を適切に管理することが重要だ。
ライズ・コンサルティンス・グループは、こうしたプログラムマネジメントの経験を多数有している。
今後も様々な企業の戦略的目標達成に向けた実行支援を通して、クライアントへ最大の価値を提供し続けられるよう尽力していきたい。

2024/10/23