アフリカ・レソトと日本の子どもたちをつなぎ、子どもたちの視野を広げたい
アフリカ南部の国・レソトと日本の子どもたちをつなぎ、子どもたちの視野を広げ、自分で考える力を伸ばしていきたい――。千葉大学の学生・渡邊莉瑚さんは、レソトにあるハ・セカンツィ村の子どもたちにカメラを用いた教育プログラムを提供し、現地の子どもたちが 自国と日本との違いを考える機会を設けたり、現地の子どもたちが撮影した写真を日本に展示し、日本の人々がレソトへの理解を深める機会をつくったりする活動をしています。弊社常務執行役員・パートナーの甲斐が、渡邊さんの取り組みと、未来への思いを聞きました。
<渡邊さんの取り組み内容>
2019年 アフリカ・レソトを訪ね、出会った写真家、ジャスティス・カリベ氏の誘いでハ・セカンツィ村に滞在
2020年 ジャスティス・カリベ氏が主宰する、ハ・セカンツィ村にコミュニティ・ラーニング・センターを建設するプロジェクトに参画。建設した施設で実施するカメラを用いた教育プログラムを企画・開発し、建設資金とプログラム実施費用をクラウドファンディングで調達。資金管理と継続的な活動のため一般社団法人Palesa(パレサ)を設立
2021年 ハ・セカンツィ村で教育プログラムを実施
2022年 教育プログラムで子どもたちが撮影した写真を披露する写真展を、鳥取県米子市で実施。7月には東京・港区でも実施予定。また、8・9月には2回目のプログラムをハ・セカンツィ村で実施予定
~レソトとの基本情報~
正式名称:レソト王国
首都:マセル
人口:約223万人
面積:約3万km²
人種・民族:ソト族
宗教:キリスト教
言語:英語、ソト語
甲斐
本日の対談の舞台は、Sustainable Kitchen Rosyです。「未来をともに育てる」というミッションを掲げ、ゴミの削減・フードロス対策という社会課題解決に取り組みながら、環境都市No.1、また食の都と呼ばれるポートランドと東京をつなぐ架け橋として、オーガニックフード、グルテンフリー、ベジタリアンやビーガンメニューなど多種多様なライフスタイルを尊重したお料理をご提供しています。レソトとの懸け橋になっている渡邊さんと似た境遇のレストランであると思いご招待致しました。
渡邊さん(以下、敬称略)
素敵なレストランにご招待ありがとうございます。それでは、本日はよろしくお願いいたします。
カメラを用いた教育プログラムでレソトの子どもたちの好奇心を伸ばす
甲斐
渡邊さんがレソトのハ・セカンツィ村でカメラを用いた教育プログラムを提供することにされたのは、どのような動機からだったのでしょうか?
渡邊
一番根っこにあるのは、2019年にハ・セカンツィ村に初めて滞在したとき、子どもたちの教育状況を見てなんとかしたいと思った経験です。村の子どもたちは、家事の手伝いや家畜の世話をしながら、片道2時間ほどかけて学校に通っていて、天候によって学校に行けるかどうかが左右されます。また、村に外国人が来ることはまれで、外の世界を知る機会はほとんどありません。私にできることがあればやりたいと思いました。
ただ、そのときは何も行動できませんでした。その後、2020年に入り、私を村に導いてくれた写真家のジャスティス(※)から、子どもの教育や大人の職業訓練、出張医療などを提供するコミュニティ・ラーニング・センターを村に建設するので一緒にやらないか?と誘いを受け、プロジェクトにジョインました。
※ジャスティス・カリベ氏。写真家としてレソトの文化などを伝える活動をする傍ら、レソトの非都市部が抱える学校や病院へのアクセスの悪さや貧困率の高さなどの課題解決のための活動に取り組んでいる。
ハ・セカンツィ村の遠景
甲斐
そのような背景があったのですね。そこからカメラを用いた教育プログラムの提供にはどのように至ったのですか?
渡邊
コミュニティ・ラーニング・センターの建設資金をクラウドファンディングで集めることにした際、施設建設のためだけでなく、出資してくださった日本の人たちも参加できて、日本とレソトをつなぐことができるようなことをしたいと考え、日本の写真とレソトの写真を交換する内容などを盛り込んだカメラを用いた教育プログラムの実施を提案しました。
カメラを用いた教育プログラムに行き着いたのは、ハ・セカンツィへの滞在中、子どもたちが私のスマートフォンでとても楽しそうに写真を撮っている様子を目の当たりにしたからです。子どもたちの好奇心や「楽しい」「おもしろい」と思うことを伸ばすことをしたい、ただカメラを渡すのではなく、写真を撮ったり見たりすることが学びにつながるようにしたいと考えたんです。
甲斐
素晴らしいアイデアだと思います。では、具体的にどのような内容のプログラムを作られたのですか?
渡邊
「写真を使ったハ・セカンツィの地図を作る」「日本の写真を見て、自分が撮影したハ・セカンツィの写真と似ているところや違うところを考える」という内容のプログラムを3カ月くらいかけてつくりました。子どもたちの自分で考える力や、新しいことを探す力を伸ばせるようなプログラムにしたいという考えから、アート教育の分野での活動経験のある大学の先輩お二人に協力をお願いしてミーティングを重ね、この内容に至りました。
プログラム詳細
好奇心や意欲は引き出せたが定期的な参加に課題
甲斐
クラウドファンディングでは目標の100万円を上回る121万円を調達、2021年に現地でプログラムを実施されたとのこと。子どもたちの反応はいかがでしたか?
渡邊
カメラを触ったことがない子どもたちだったので、初回のワークショップでは、7台のカメラを取り合うくらいみんな夢中で。子どもたちの好奇心や「やってみたい」「おもしろい」という気持ちを呼び起こすプログラムを提供できて本当によかったと感じました。
また、プログラムとは別に、村の子どもたちが通う学校にお邪魔させてもらった際、私の地元・鳥取県米子市の中学生たちがレソトの子どもたちに向けて英語で書いた手紙を渡してレソトの子どもたちが日本の子どもたちに手紙を書くというアクティビティをさせてもらいました。レソトの文化や生活について絵と文字で説明する手紙を書いてもらいましたが、レソトの学校には、図工や美術のカリキュラムがないため、授業で絵を描くことができるのがまず楽しかったという反応をもらいました。
また、英語が苦手な村の子どもたちの中には、日本の子どもたちの手紙をもらったことで、英語で手紙を書きたいという意欲や、英語を勉強しようという意欲が高まった子もいたと聞いています。
ただ、教育プログラムのほうは、すべてを終えられたわけではなく、課題も出てきています。
現地ワークショップの様子
甲斐
どういった課題でしょうか?
渡邊
プログラムは複数回にわたる構成なのですが、毎回同じ子どもたちが参加できるわけではないこと、また、毎回決まった時間に集まることができないことが課題として浮かび上がりました。その結果、プログラムを最後まで実施できなかったので、この点をどのように解決して通しで実施できるかが今後の課題です。
甲斐
子供達は非常に楽しい時間を過ごしていたという経験から、継続的に参加したいと思っているのではないかと感じます。何が原因で参加が難しいのでしょうか?
渡邊
子どもたちは日常的に家事の手伝いや家畜の世話をしているため、ワークショップよりもそれらが優先となるからです。特に男の子は家畜の世話をしている子が多く、ワークショップの場所に集まるのが難しい状況です。また、村が4つの地域からなるため、開催場所から自宅が遠い子がいるのも原因の一つです。
甲斐
生活習慣や地理的な要素が妨げになっているのですね。これらの課題を解決するのは非常に難しいと感じます。どのように解決していきたいとお考えですか?
渡邊
次回、2022年8・9月にプログラムを実施する際は、少人数で開催できる内容にプログラムを組み立て直すことと、開催場所に来られない子どもたちを私たちが訪問し、個別にワークショップを行うことを検討しています。そうしてカメラに触れる子を1人ずつ増やしていければと思います。
日本とレソトの子どもたちの交流の機会をもっと増やしていきたい
甲斐
さらに先の展望はどのように考えていらっしゃいますか?
渡邊
日本の子どもたちとレソトの子どもたちとの交流がもっとできるといいなと思っています。例えば、写真や手紙の交換や、オンラインでつなぐごことなどをやっていきたいですね。あとは、レソトの子どもたちを日本に招待して写真展を開催することができるといいなとも考えています。
甲斐
教育プログラム自体の継続については、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?
渡邊
私自身、大学卒業を控えていて、卒業後の進路を考える中で今度どうやってレソトの活動と折り合いをつけるかはすごく悩んでいるところです。
今、考えているのは、私はリモートで少し作業するのみで、現地だけで回せるような仕組みをつくることです。具体的な方策をジャスティスと話し合う中で一つ、進めているのが、千葉大学との提携です。千葉大には「グローバルボランティア」という、夏休みや春休みに学生を海外ボランティアに派遣する科目があります。そのプログラムの一つにレソトを組み込んでもらって、千葉大の学生が定期的にレソトに行って子どもたちと一緒に活動することで、この活動を継続できればと思っています。
甲斐
お話をうかがって、渡邊さんの教育への思いを強く感じました。その動機や原動力はどこにあるのでしょうか?
渡邊
まず一つは、子どもがすごく好きという思いです。そして、「子どもにかかわる何かをしたい」という思いで参加したタンザニアでの幼児教育のボランティアで教育の必要性を強く感じ、もっともっと子どもの教育にかかわっていきたいと思ったのが、今のレソトの活動にもつながっているのかなと思います。
レソトの子どもたちが学校で学んでいる様子
甲斐
教育の課題というのは、積もるところ、どんな国・地域・境遇に生まれても、自分の視野を広げ、興味・関心を持てることにチャレンジできる平等を達成することだと私個人は思っています。渡邊さんが目指していらっしゃるのもそこではないかと思いました。
渡邊
おっしゃるとおりです。あとは、もう一つ、格差や不平等を是正したいという思いもあります。先ほど、日本での写真展にハ・セカンツィの子どもたちを招待できればと思っていると話しましたが、それは、私の中に「なぜ私は航空券を買えばレソトに行けるのに、レソトの人たちは日本に来られないのか?」という思いがあるからです。経済格差にかかわる課題はたくさんありますが、何かしらの形で一つひとつ埋めることができたらいいなと考えています。
甲斐
それは非常に深遠なテーマです。国の経済格差の問題なので、渡邊さんの問題意識やなんとかしたいという思いをまともにやろうとすると、やることが果てしなくたくさんありますよね。
渡邊さんご自身は、まずは入り口の、子どもたちの視野を広げることなら自分にもできると思って今の活動に取り組んでいらっしゃって、それはぜひ続けてほしいと思います。そして、レソトもしくは教育格差への思い入れが自分として信じられるものであるなら、仕事もその方向とつなげた方が、人生が豊かになるように思います。
渡邊
ありがとうございます。なんとか方法を見つけたいと思います。
甲斐
では最後に、未来をつくっていくことへの渡邊さんの思いをうかがいたいと思います。渡邊さんにとって「Produce Next」とはどういうことでしょうか?
渡邊
「レソトと日本の子どもたちをつないで、新しい教育の形をつくること」です。
甲斐
ありがとうございました。これからも渡邊さんの活動を応援しています。
左:甲斐 右:渡邊
渡邊さんのビジョンを成し遂げるにはストーリーテリングが効果的
甲斐
現地の状況を見てなんとかしたいという強い思いを持つことができ、かつ、その思いを行動に落とし込んで人を巻き込み、実際に物事を起こしていく熱意と行動力がすばらしいと率直に思いました。
その上で、今後、活動を継続・拡大していくにあたり強化を期待したいのは、大きな絵を描き、それをストーリーテリングで伝えることです。活動そのものを組織化して、オペレーションを回せる体制を組むことは大前提で、いかにして必要な資金を継続的にファンドレイズしていくか。そのときに重要になってくるのが、ストーリーテリングではないでしょうか。
渡邊さんの根底にあるのが、どこに生まれても、広い視野を持つ機会や、やりたいことを見つけられてチャレンジできるべきだという思いと、そうではない現実に対する課題感であるということ、そしてこの課題感から、「どこに生まれても視野を広がられる」ということにフォーカスし、カメラを使って異なる国々の子どもたちを繋ぐ活動をしているということが、よりわかりやすく、丁寧に伝えられれば、活動の意義深さがさらに伝わり、より多くの方々に影響を及ぼすことが出来ると思います。
渡邊莉瑚さん(わたなべ・りこ)
千葉大学文学部4年。大学1年生の春休みに2カ月間、タンザニアで幼児教育にかかわるボランティアに参加し、アフリカに魅了されるとともに、教育の重要性を実感。2019年、大学3年生の夏に訪れたレソトで写真家のジャスティス・カリベ氏とハ・セカンツィ村に出会い、村の子どもたちにカメラを用いた教育プログラムの提供や、日本での写真展実施など、日本の子どもたちとの交流機会をつくる活動を進めている。
甲斐健太郎(かい・けんたろう)
常務執行役員、パートナー。国際協力銀行、ボストン・コンサルティング・グループを経て、 PEファンド投資先の製薬会社、ベネッセ・ホールディングス、 ベルリッツ・ジャパンと、事業会社3社の経営企画業務に計9年従事の後、 ライズ・コンサルティング・グループに参画。 戦略策定・実行、経営管理、PMI推進、人事制度等制度改革、 構造改革PMO運営等のコンサルティング及び実務経験多数。
店名:Sustainable Kitchen Rosy
(サステナブルキッチン ロージー)
住所:〒101-0036 東京都千代田区神田北乗物町11
電話番号:03-6262-9038
URL:http://kitchenrosy.com/
記事作成:浅田夕香
2022.07.06