コロナ禍で急激なDX推進を迫られた企業に生まれた歪とそれを治癒するSX
自己紹介とイントロダクション
コロナ禍という言葉が当たり前のように使われるようになり早2年以上経つ。本記事のタイトルにあるDXやSXと同様に、良く見聞きするワードではあるものの「説明せい!」と言われてスラスラ言葉が出てくる人は少ないのではないだろうか。コロナ禍はコロナが我々にもたらすありとあらゆる禍(わざわい)の総称であり、各人の置かれている状況や価値観などによってイメージするものが異なってくるコンセプトだと認識している。ちなみに、DXやSXについては、当社System Transformation Leadの白井が前回寄稿した「DXの進化形、SX(システムトランスフォーメーション)」を参照して欲しい。
筆者の最大の趣味は海外旅行である。そんな筆者にとっては、海外旅行に行けなくなったことこそコロナ禍の最たるものだ。人によっては「孫に会えなくなって・・・。」とか、「唯一の楽しみである仕事終わりの仲間との一杯ができなくなった。」なども一種のコロナ禍であろう。
では企業にとってのコロナ禍にはどのようなものがあるか少し想像してみよう。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などにより、飲食店が営業時間の制限を余儀なくされ家賃が払えず廃業する、というのがニュースで良く耳にするのでイメージしやすいのではないだろうか。
一方、当社のような総合コンサルティングファームのクライアントである大手の金融、メーカー、流通、等々の企業にとってのコロナ禍はイメージできるだろうか。金融であれば例えば融資している企業の倒産による貸倒れであったり、メーカーであれば例えばマスクをするようになったことで口紅が売れなくなったりと、業界別で色々と想像を膨らませることはできる。
当社がITのアセスメントなどを通じて各社に共通して発生しているのは、コロナ禍により助走期間無しに急激なDX推進を余儀なくされたことにより、ITはもちろんのこと、戦略、組織、オペレーションなど、SXプラクティスで言うところの「System」、つまりは企業システム全体に歪が生じていることである。
今回は、このような歪みが生じた事例や、当社が提供する歪みの補正と再発防止ためのソリューションについてご紹介する。
目次
- コロナ禍による急激なDX推進が生んだ歪の事例
- 生まれた歪の対処方法の考え方
- 歪の補正と根本改善のアプローチ例
- 最後に
コロナ禍による急激なDX推進が生んだ歪の事例
まずは、コロナ禍初期に社会で起きた変化を思い出して欲しい。それまでは毎朝当たり前のように満員電車に揺られ会社に向かった。到着したらいつも見慣れた自分のデスクに着席し、机上に置かれた自身のPCを立ち上げてメール対応や資料作成、あるいは関係者全員で会議室に集まって協議をするなどし、朝から晩までクタクタになるまで働いた後、また満員電車に揺られて帰宅していた。そのようなありふれた日常がコロナ禍という名のパンデミックにより一瞬で良くも悪くも破壊されてしまったわけだが、そんな中で企業に生じた歪の事例を幾つか紹介したい。
会社指示により週の半分以上在宅を余儀なくされ、使い慣れないリモートアクセスを使って社内ネットワークに接続し、メールやワークフローなどの社内システムを使用。社員の大半がリモートアクセスを一度に使うことを前提にインフラ整備をしているわけもなく、システムが遅いとのクレームが殺到してヘルプデスクはパンク。なかなか改善されずに仕事にならない日々が続き、顧客からのクレームで自分自身もパンク。
Web会議に必要なツールは急いで入れたが、社員への展開時にマニュアルやルールを整備している余裕はなく、パスワードも設定せずにWeb会議を開催する人が続出。関係ない部外者が入りたい放題で、機密情報が洩れるリスクが高まった。またリモートワークのガイドラインも未整備で、自宅より居心地の良いカフェで業務をする人も出てきて、背中側からのPCモニター覗き見による情報漏洩リスクも出てきた。
加えて、働き方の大きな変革により本来は組織構造も最適化する必要があるところ、手が打てておらずオペレーションの非効率化も進んだ。
このようにコロナ禍による急激なDX化は多くの企業で推進され、インフラやセキュリティといったITだけでなく、戦略や組織、オペレーションにも沢山の歪を生んだ。
生まれた歪の対処方法の考え方
SXプラクティスは、企業経営における総合病院を目指している。実際の総合病院内に、内科、外科、小児科、などが存在するように、SXプラクティスも、治療が必要な患部に応じた役割を持つ診療科を整備する予定である。
今回の寄稿では、特に私が得意とする領域である「整形外科」の治療を中心にご紹介したい。通常の病院における整形外科が、体の歪みを見つけ補正しつつ、再発防止のため正しい姿勢の習慣づけを行うように、ライズ総合病院の整形外科も、企業システムに生じている歪みを見つけ出し補正をかけながら、再発防止のための根本改善策を講じる診療科である。
ライズ総合病院では、コロナ禍の歪を持った患者を整形外科にお連れした上で、以下のようなステップで対処してくことを想定している。
- 問診・診察
- 検査・診断
- 治療・正しい姿勢習慣づけ
問診~診断を実施した上で、物理的な補正をかけて行くだけではなく、同様の歪みが再発しないように、正しい姿勢の習慣づけを実施する。
歪の補正と根本改善のアプローチ例
歪みの補正や根本改善のソリューションは、歪みを生じる患部のパターンごとに検討し整備する必要がある。
例えば問診・診断フェーズでネットワークインフラ起因の歪みがあると診断した場合でも、通常ネットワークインフラは多くのIT機器で構成され、患部も複数である可能性があるなど特定することは難しい。そこで検査・診断フェーズにてトラフィック分析やパフォーマンス解析を確り行って、すべての患部を特定した上で、歪み補正の治療方法を検討する必要がある。
組織体制起因の歪みがあると診断した場合も同様で、単純にリモート作業が増えたことによりリソース配分が崩れたことが問題でリソースを最適化すれば良いケース。これまでリアルでのコミュニケーションで成り立っていたところ、バーチャルなコミュニケーションを余儀なくされセクショナリズムが顕在化してしまったので、組織のカルチャーや社員のマインドセットから手を入れて行かなければならないケース、などの複雑なケースもあるため、問診、診察、検査を通じてすべての患部を正確に特定することが肝要である。
すべての患部を特定できたら、フェーズは歪みの補正と根本改善の検討に移る。先ほど紹介したリモートアクセス利用者の急増によりインフラキャパシティとの整合性が取れなくなる歪みのケースの場合は、検査時にトラフィック分析やパフォーマンス分析を行う、と申し上げたが、これらの優れたところは、患部を発見できるだけでなく、パフォーマンスデータの最大値、平均値や標準偏差をもとに、患部をどのような値で補正すれば良いかの客観的な示唆を得ることもできることである。そして、当該分析結果をベースにアフターコロナのトレンド予測も加味した上でインフラの増強をすれば解決するはずである。ただインフラを増強すれば歪みは補正されるもののそれは一時的な対処療法でしかなく、将来また同様の歪みが生じるリスクを排除するためには根本改善(正しい姿勢習慣づけ)が必要である。
これは「言うは易く行うは難し」で、どの企業に当てはまる夢のようなソリューションはなく、実際にはクライアントの企業カルチャーや商習慣などに応じてオーダーメイドしていく必要がある。そこが我々SXプラクティスの腕の見せ所である。上で述べた患部がインフラの例であれば、システムの利用者数と必要となるインフラの相関関係を整理し、いずれかに変更が生じる場合はもう一方も見直すプロセスを構築するというのも一案であるし、より汎化させ、パフォーマンス分析をITオペレーションとして定例化し、更に一定期間ごとのトレンドを分析することで、問題が発生する前の予兆の段階で対処することができるようにする、というのも1つのソリューションである。これだけであれば弊社でなくてもできる企業は少なからずあるだろう。
だが患部が戦略にあるケース、組織にあるケース、オペレーションにあるケース、あるいはそれらの組み合わせである場合、対応できるケイパビリティを持った企業は非常に限られるであろう。一方、当社が目指している総合病院であれば、どこに患部があろうとも、各患部の治療および再発防止に向けた複数のソリューション案をクライアント特性も踏まえてプロコン比較した上でまとめ上げ、全体として1つの最適なSXソリューションをオーダーメイドすることが可能である。
最後に
急激なDX推進による「歪み」をキーワードにつらつらと書きながらふと思った。DXという言葉が独り歩きし、意味や意義さえ理解しきらぬままDX化というバズワードが上の方から落ちてきて、ベンダに提案されるままに導入してしまった企業は、コロナ禍とDX禍の二重の被害者なのではないかと。
自社は大丈夫だ、と思っている企業でも、アセスメントをすれば歪みの1つや2つは必ず見つかる。致命的かそうでないかのレベル感の違いはあるかもしれないが、例え致命的でない歪みだとしても、放置しても良くなることはなく、むしろどんどん悪化して行く可能性があるので、早期に検査・治療して再発防止策を講じることを強くお勧めする。企業も我々人間と同じく、健康第一である。
2022/09/22