アフリカ南部で化粧品原料産業を育て、現地の雇用をつくり出す
アフリカ南部で化粧品原料産業を育て、雇用をつくり出すことを目指し、2021年に創業した株式会社Verde Marula。マルラという野生の木から落ちてくる実を搾ってとれるマルラオイルをはじめ、植物オイルや植物エキス、精油、スーパーフードなど24種類以上の原料の輸入・販売と、それらを用いた独自のスキンケアブランド「subi」の商品開発・販売に取り組んでいます。同社が目指す世界と、事業の現状について、当社シニアコンサルタントの大澤が、代表取締役社長/CEOの有坂純子様、取締役副社長/COOの中塚奈美様に聞きました。
株式会社Verde Marula代表取締役社長/CEOの有坂純子様(左)と取締役副社長/COOの中塚奈美様(右)
公式Webサイト:https://verdemarula.com/
株式会社Verde Marulaと大澤の出会い
株式会社Verde Marulaと大澤の出会いは、2022年夏に株式会社Rubatoが開催した、ビジネスと自らの成長に挑戦する実践型プログラム「ジッセンチ」だった。プログラムの内容は「社会人と大学生が一緒にチームを組み、実際のクライアントの課題に対して約2か月間の検討を行い、課題解決に向けた提案を行う」というもので、そのクライアントが株式会社Verde Marulaであった。当社からは大澤を含め数人のコンサルタントが参加し、提案を行った。
株式会社Rubato
株式会社Rubato:「組織が変わる」「人が変わる」ことへの貢献をミッションとして、経営コンサルティング、ビジネス研修を提供している。当社も、これまでRubato様による資料作成講座研修を通して、コンサルタントの資料作成のレベルアップを図ってきた。
公式Webサイト:https://www.rubato.co/
ジッセンチのコンセプトのチャート
3つのingが重なり合うところに「ジッセンチ」の価値が生まれる。
このプログラムでの取り組みが評価され、当社が株式会社Verde Marulaへの継続的な支援をしていくと決まった。
当社は「Produce Next」というミッションを掲げており、株式会社Verde Marulaは「次の未来を創造すること」に挑んでいる。つまり、2社は似たような志を持ち、共に未来へ向かって歩みを進めているということだ。
では、具体的に彼らはどれだけの熱量を心の中に秘め、どのような想いで挑戦を続けているのだろうか。ジッセンチ参加者の代表として、大澤がその「想い」を引き出す。
最終発表でプレゼンをする大澤
捨てられていた植物の実を活用し、農村部に雇用を生み出す
大澤
有坂さんとパートナーの有坂之良さんは、元々、2016年にモザンビークでVerde Africa社を設立し、再生炭の製造・販売事業に取り組まれていました。2021年にVerde Marula社を設立し、マルラオイルの製造・販売事業に着手された経緯とその当時の課題を教えてください。
Verde Marula社 代表取締役社長/CEOの有坂純子様(中央)、取締役副社長/COOの中塚奈美様(左)、取締役/Executive Officerの有坂之良様(右)
有坂様(以下、敬称略)
マルラオイルを取り扱うことで、農村の、とくに女性の雇用を生み出すことができるというのが一番の動機です。アフリカにおける貧困問題のインパクトを最も直接的に受けているのは、農村の女性です。農村には本当に仕事がなく、皆、現金を得るために木を切って薪や木炭などの燃料にして売りに出していて、それが森林破壊の原因にもなっています。
私たちが最初に立ち上げたVerde Africaの事業も、現地の雇用を生み出すことを重視していました。ただ、都市部の暮らしに必須の炭を、炭くずなどのリサイクル原料から製造・販売するという事業なので、インパクトが都市部に限られています。また、体力仕事なので雇用は男性が中心です。都市部だけでなく農村部に雇用を生み出せる事業をできないかとずっと考えてきて、ようやくビジネスに結びつけられそうだと思えたのがマルラオイルでした。
マルラの実を丁寧に加工し、低温圧搾されたオイルを使用した、独自のスキンケアブランド「subi マルラオイル」
大澤
Verde Africaの事業は雇用を生み出せる影響範囲が都市部かつ、男性中心だったのですね。しかし、実際に事業を展開したことによって新たな気づきが生まれ、次のアクションに繋げることができたわけですから非常に大きな意味があったのではないでしょうか。ところで、マルラオイルは、欧米や日本でスキンケアオイルとして販売されているというのは聞いたことがありますが、有坂様がマルラオイルと出会ったきっかけは何ですか。
有坂
モザンビークでマルラオイルを搾っているNGOから「日本で販売してみないか?」とサンプルをもらったのがきっかけです。使ってみると、ベタつかないうえ翌日には肌がしっとりとした状態に変化したことに驚きました。
調べを進めるうちに、原料であるマルラの木の実を拾う仕事が村の女性たちに生まれることがわかりました。マルラの木の実をはじめ日本や欧米では植物原料の多くに高い価値があるにもかかわらず、現地では価値が見出されずに捨てられてしまうことも多いです。それらを私たちが取り扱うことで、彼女たちが村にいながら仕事ができて、かつ、農村部にインパクトを生むこともできます。まさに私たちがやりたかったことでした。
マルラの実を採集する現地の女性
マルラの実
大澤
現地の方からのお声がけというのは、実際にモザンビークに住み、現地の生活にとけこんでいる、有坂様ならではのチャンスのつかみ方ですね。そこからどのように調達・販売の仕組みを構築したのですか。
有坂
当初は、私たちにマルラオイルを紹介してくれたモザンビークのNGOから購入して販売する計画でしたが、微生物の含有量などが日本の基準をクリアできるものではなかったため、取引を断念しました。植物原料は、自然のものだからこそ微生物が繁殖しやすく、そこをうまくコントロールするのが製造工程を持つ企業の力の見せどころでもあります。しかし、モザンビークのNGOではそこまで叶いませんでした。
そこで、自社工場の立ち上げを考えました。そのための調査の最中に出会ったのが、今取引している南アフリカの企業でした。彼らが持つ微生物の繁殖を防ぐ技術やこだわりに圧倒され、まずはこの会社から購入して、販売基盤が固まってから自社工場を作る方針に切り替えました。
その後、原料の輸入・販売会社として少しずつ扱う原料の種類を増やしていって、今は南アフリカ国内にある5社ほどのサプライヤーさんから24種類以上の原料を輸入しています。契約前に必ず工場を視察し、適切な工程で高品質な製品をつくっていることを確認して契約したサプライヤーさんです。
大澤
実際に現地で視察を行い、信頼できるサプライヤーかどうかを見極めるのは非常に重要なことだと思います。原料を調達後、日本での販路はどのように開拓しましたか。
中塚
最初は知り合いから紹介してもらうなどしていました。早い段階で1社、大きな企業との取引が決まったのですが、その後はなかなか決まらず、電話やメールでの売り込みも始め、今は展示会への出展に力を入れています。2022年9月に初めて出展したところ、かなりの見込み顧客リストを獲得でき、直接説明することが契約率にはね返ってくることを実感したので、今後もリアルな場での営業を泥臭くやっていきたいと思います。
お話を伺う大澤(右)と回答する有坂様(中央)、中塚様(左)
大澤
展示会はコストがかかりますが、非常に有効なアプローチだと思います。
私は以前、メーカーで商品開発をしていたのですが、店頭や工場、原産地に直接情報を取りに行っていました。ですから、来訪者の多くが見込み顧客である展示会においては、前向きに話を聞いてくれる人が多いと思います。また、展示会では直接来訪者に説明することができるので、商品の細かなこだわりや熱量を伝えることができます。メーカーにとっては、直接ヒアリングして得た情報は、社内で議論する際に非常に重要な情報になりますから、見逃せないチャンスですよね。
これまで様々なメーカーにアプローチしてきたと思いますが、どのような点で評価を得ていると感じますか。
中塚
いちばんは、製品を使用したことによる効果です。そこは私たちも気をつけていて、製品を紹介する際は、私たちの想いよりも、まず、効果・効能を伝えています。例えば、展示会には原料が配合された化粧水など、実際の製品を持参して効果を感じてもらえるようにしています。
有坂
効果があることが前提で、同じ原料を扱う競合がいる場合は、他社に比べてストーリーがあることやトレーサブルであることなどが差別化要因になっていると感じています。
中塚
例えば、ミラバイブ葉エキスという急速保湿に優れた植物エキスには、面白いストーリーがあります。ミラバイブ(ミロタムヌスフラベリフォリア)は乾燥した岩山に自生する植物で、その葉は普段は黒く縮れ、枯れ果てたように見えるのですが、雨が降ると葉が開き、青々と茂っていくことから「復活の植物」と呼ばれているのです。そして、なかなか雨が降らない環境に生きる植物だからこそ水を蓄える仕組みを備えていて、そのエキスに急速保湿効果がある。エキスを配合した化粧水で効果を感じていただいた上で、こうしたストーリーやトレーサビリティ、そして、大学や研究機関による効果検証の結果というエビデンスを伝えることで興味を持っていただくことが多いですね。
大澤
効果検証もなされているのですね。
中塚
とくに植物エキスは検証が活発ですね。漢方として、あるいは、伝統的に使われていたものを対象に、現地の大学が効果を検証して原料メーカーが商用化するという流れが出てきているので、エビデンスが発表されている原料も多く、助かっています。
日本からアジアへ販路を広げ、一大産業に成長させたい
大澤
どのような点にやりがいやおもしろみを感じていますか。
有坂
アフリカの生産者や原料を拾って収入にしている人たちと、日本のメーカーさんとを繋ぐ重要な役割を果たしていることですね。現地の熱意ある企業家や、その下でプライドを持って働いている人たちと取り引きすることができるだけでなく、現地で原料を拾っている人たちの暮らしを守りながら彼・彼女たちの収入を増やせている。そして、私たちが原料を日本に持ってくることで、メーカーさんから「すごく珍しいね」「こんなの見たことないよ」「すごくいい効能だ」などと言っていただける。良い循環の中で繋ぎ目となれている実感があり、嬉しく思っています。
中塚
私も、日本で「おもしろいね」と言ってもらえるのがすごく嬉しいですね。そして、雇用をつくりたいとずっと思ってきた中、それを具体的に描けるフェーズまできたので、このあとは拡大するだけだと思うと楽しみしかないですね。
やりがいを熱く語る有坂様(左)と中塚様(右)
大澤
「珍しい」や「面白い」といった褒め言葉は非常に嬉しいですよね。皆様の取り組みが驚きや感動を与えているからこそ、出てきた言葉だと思います。今後について、ビジネスの目標や見通しを教えてください。
有坂
今は南アフリカの製品だけを販売していますが、近隣の国々、例えばボツワナやナミビア、モザンビークなどからも面白い製品を見つけていければと思っています。例えば、私たちはまだ製品化できていませんが、ザンビアにローズウッドという絶滅危惧種に指定されている硬い木があります。上質な木材として違法に伐採されている現実もある木です。その実からも植物オイルが採れるので、製品化できれば、森林伐採を防ぐことにも貢献できると思っています。
あとは、規模を拡大していきたいですね。例えば、マルラオイルは南アフリカだけでなく近隣諸国でも小規模の企業や生産者によってたくさん生産されています。そういった小さな会社のキャパシティビルディングなども、将来、お手伝いできたらという夢があります。また、私たちが買い付けを断念したモザンビークのNGOのように、設備不足から品質を上げられない企業の支援や、そういった工場のオイルをまとめてフィルターにかけ、販売可能な品質にするための拠点をつくることなども考えています。それから、自社工場をつくるという目標に向けてはモザンビークでマルラオイルを絞るためのテストを始めているところです。
供給量を増やすことができれば、産業を大きくできますし、販売単価も今ほど高価にはならずに済みます。資金調達が必須ですがトライしていきたいですね。
中塚
現地でたくさん生産することが、私たちのゴールです。そのためにはたくさん売らないといけないので、日本の次は、韓国やマレーシア、シンガポール、台湾などに展開していけたらと思っています。
有坂
アジアでメインプレーヤーになるくらいにしていきたいですね。そして、アフリカ南部では「子どもたちの親は皆、あのマルラオイルの工場で働いている」となるくらいの一大産業にしていければと思います。
この考えを突き詰めると、私がやりたいことは、頑張った人が報われる世界をつくることなのです。日本は頑張ったらそれなりに自分へ返ってくる社会ですが、アフリカには、いくら頑張っても越えられない壁があります。なぜなら、雇用の機会が少ないから。どれだけ勉強しても、大学を卒業しても、雇用の機会が少ない。それは、産業が少ないかつ、小規模であることも要因の1つですし、袖の下やコネが当たり前であることも大きいです。実力主義ではない。
ですから、私たちが考える雇用は、実力主義に基づく雇用です。頑張る人や真面目な人たちが働ける雇用の機会を少しでも多くつくり、頑張れば生活がだんだんと良くなっていくということを実感できる世界にしていきたいと思っています。
中塚
私も同じ思いです。現地に行って感じたのは、若い人たちの多くが、仕事がなく収入に乏しい状況を「こういうものだ」と諦めていることです。それがすごく切なくて、雇用の機会を生み出したいという思いを強く持ちました。
大澤
日本にいると、雇用の機会が少ない中で袖の下やコネが優先されるという状況は、遠い国の現実とはいえ、想像するのが難しいです。雇用機会の創出がこの問題を解決する一助になればと思いますし、私たちも全力でサポートしていきます。最後に、お二人にとって「Produce Next」は何を意味しますか。未来をつくっていくことへの思いを教えてください。
中塚
純子さん、お願いします。
有坂
「頑張った人が報われる世界をつくること」です。
大澤
ありがとうございました。
現地に拠点があるからこそ伝わる詳細なストーリー
製品の効果が最重要である一方、有坂さんが現地に住まれて現地の人と触れ合っているからこそわかる実情がありありと伝わってくることで、展示会に訪れたメーカーの方々により強く響くのだということを感じました。ストーリーテリングの重要性は増しており、ストーリーによって動かされる人は今後も増えていきます。Verde Marula社さんの製品には、ストーリーのディティールからくる重みの違いを感じました。
また、現地の雇用を創出する、森林伐採を防ぐ、という志について、雇用の機会をつくることにより、生活のために木を切る必要性をなくすというだけでなく、木の存在自体に意味を与えられるとよいのではと思います。現地の人々が「この木は必要な木だ。自分たちで守ろう」というマインドを持つことができれば、木の伐採を控えるようになるでしょう。このように人々の心が変わるような役割や意味を木に与えられるような製品をつくることが重要だと感じました。
設備投資や工場建設等、ビジネスのスケールに向けては資金調達が大きな課題になると思いますが、当社は今後も引き続き伴走、ご支援させていただきます。
有坂純子さん(ありさか・じゅんこ)
株式会社Verde Marula 代表取締役 社長/CEO。アフリカ・モザンビーク在住。教育系の企業に勤務した後、カナダのカルガリー大学で経済学を専攻。マイクロファイナンスに興味を持ち青年海外協力隊としてザンビアに赴任し、農村女性を対象とした金融プロジェクトの仕組み構築に努める。2013年より(一財)アライアンス・フォーラム財団で、東南部アフリカでのインクルーシブファイナンス研修やBOPビジネス調査に携わる。2016年にパートナーの有坂之良氏とともにモザンビークへ移住し「Verde Africa, Lda」を設立。2021年1月、Verde Marula 社の代表に就任。
中塚奈美さん(なかつか・なみ)
株式会社Verde Marula 取締役 副社長/COO。東京都在住。東京都庁、Webプログラマ・SE、広告代理店でのメディア企画・プロデューサーを経て、リクルートにてじゃらんnet、ホットペッパービューティ、ポンパレモール(EC)などのメディアのCRMマーケッター、プロダクトマネージャーを経験。8年間在籍後、起業し、中小企業向けにWebマーケッターの育成や、Webマーケティングコンサルティングを行いながら、2020年11月よりVerde Marula社の立ち上げに携わる。2021年1月にVerde Marula 社の取締役 副社長/COOに就任。
大澤将保(おおさわ・まさやす)
シニアコンサルタント。慶應義塾大学を卒業後、大手食品メーカーにてマーケティング戦略の策定から実行までを経験。プロダクト開発、販促広告施策、ブランディングにおける知見を持つ。ライズ・コンサルティング・グループ参画後は、既存事業の戦略・マーケティング案件、開発支援・仕様検討案件、PMO案件等の幅広いコンサルティングを担当。
取材したお店
カラバッシュ(African Restaurant Calabash)
〒105-0013 東京都港区浜松町2-10-1 浜松町ビル B1F
電話番号:050-5589-3614