地方で育んだ情熱を日本中に届け”フルーツで豊かさを創造する”

岡山県の北部に位置し、県下で最も大きな自治体である真庭市。豊かな自然に囲まれたこの地で「きよとうファーム株式会社」は桃やぶどう、梨といった青果やその加工品、フルーツ雑貨などを販売しています。
社長の平泉 繁さんは大阪府出身で、元々はシステムエンジニアとしてサラリーマン生活を送っていました。25年前、憧れだった田舎暮らしを実現すべく、岡山県へ移住。「農事組合法人 清藤」(以下「清藤」)に新規就農し、以来果樹の栽培や販売に携わってきました。
 
また、当社はSDGsの視点から真庭の未来に繋がるイノベーション創出を目指すプログラム「Cultivate the future maniwa 2023」で、きよとうファーム様とマッチングし、規格外などで流通させることが難しい果物を活用した新たな商品開発を行いました。
今回のナビゲーターは、同プログラムに参画していたコンサルタントの田中杏奈が務めます。
 
移住を決めた際のエピソードや、独立を決めた背景、さらにはきよとうファーム 様が目指す未来についてお話を伺いました。地方だからこそ叶えられる「PRODUCE NEXT」をぜひご覧ください。

 

 

田中
先日のプログラムでは大変お世話になりました。本日はよろしくお願いいたします。
 
平泉
こちらこそよろしくお願いします。今、新商品の販売 に向けて着々と準備を進めているところです。
 
田中
後ほど、進捗についてもぜひ伺わせてください。

 

-憧れの地方移住を大決断。導かれるように農業の道へ-

田中
かねてから田舎への移住を希望していたとのことですが、実際に真庭市へ移住を決めた背景と、移住先を決めるときに重視していたことを教えてください。
 
平泉
当時、二人の娘が1歳と3歳で、幼稚園へ行く手前のタイミングでした。物心ついてから引っ越しをさせたくはないという僕自身の想いもあり、この時期がベストだと思いました。
また、実家のある大阪へのアクセスが良いことも理由の一つです。
 
田中
田舎暮らしへの憧れ は、何をきっかけに芽生えたのでしょうか。
 
平泉
元々虫取りやサイクリングといった外遊びが好きだったので、自分は自然に囲まれた土地の方が合っているだろうな、いつか暮らしてみたいなと思っていました。
 
田中
ご家族の理解を得るのは大変そうに思えるのですが、実際いかがでしたか?
 
平泉
妻が結婚する1年前にイギリスへ留学に行ったんですね。そのときに快く送り出した経緯があり、また僕自身がやると決めたら行動してしまう性格だというのをよくわかってくれているので、受け入れてくれました。
 
田中
知らない土地へ移住するというのは大きな決断かと思いますが、不安はありませんでしたか?
 
平泉
移住に対しては、若気の至りと言いますか、特に不安はなかったです。というのも、日本のどこかで誰かが農業で生計を立てているのだから、自分にもできるだろうと思っていたんですね。
また、当時 (1995年頃)はインターネットもあまり普及していませんでしたし、今ほど移住に関する情報は簡単に入手できなかったので、逆に言えば「良いところ」だけが見えていました。
僕自身の目的は「農業に従事すること」ではなく「田舎暮らしをすること」だったのですが、とにかく情報が少なかったので「田舎には農業しか職がない」と思い込んでいて、導かれるように農業の世界へ足を踏み入れていました(笑)
 
田中
思い切りの良さが、行動につながったのですね。職探しはどのように行ったのですか?
 
平泉
まず、岡山県庁へ職探しの相談に行きました。最初から「新規就農」のサポートをする部署へ行ったので、選択肢は農業一択になりました(笑)
しいたけ、花、米などの希望を伝えましたが、生計を立てるのは難しいとか初期投資がかかりすぎるとかで反対され、最終的に産地として栄えているブドウ農家に就農すると決めました。
オリエンテーションの中で、現地の受け入れ先農家を見学するのですが、その一環で連れて行ってもらった中に清藤があり、僕の新たなキャリアがスタートした…というわけです。
 
当時、農業は個人経営しかないものだと思っていたのですが、清藤はちょうど農業法人を立ち上げた頃でした。「あ、農業にもこういう世界があるんだ」と、法人経営にも興味がわきました。
 
田中
システムエンジニア時代とは180度異なる仕事を始められたわけですが、どのようなことに苦労されましたか?
 
平泉
これまでの経験を真っ白にしてお嫁に行くような感覚だったので、どんなことでもすべて受け入れようという覚悟はできていました。
一方で、自分が移住する前に抱いていた田舎暮らしのイメージとギャップを感じる面も多々ありました。
 
都会の中でも世代によるギャップはあると思うのですが、田舎だとそれがより大きなものに感じます。流行の波や最新情報も遅れてやってくると言いますか。移住した時は市役所にパソコンが一台しかなかったですし。
 
仕事について、僕自身は負けず嫌いなので、既にある場に自分を馴染ませていくのがあまり上手ではないんですね。特に、地方では目上の人を敬うという良い文化がより深く根付いていますが、その点が僕には欠けていました。もっと周囲の方に教えを請えばよかったものの、負けじと自分の力でやろうとしてしまい、衝突することもありました 。
例えば、農業について世間からは「儲からない」というようなイメージを持たれていることが多いので、そういうのを見聞きすると、変えたい!と思って行動してしまうんですよね(笑)
一方で、様々な業界がある中でも、農業は特に変化を好まない雰囲気があるので、僕がそうやって新しいことをやろうとすると、衝突してしまうという…。お互いが歩み寄りつつ、未来のためになることをやっていきたいですね。
 

-きよとうファーム立ち上げへ。チームワークを重視した組織作りを徹底-

きよとうファームの店内

きよとうファームの店内

 
田中
ここからはきよとうファームの立ち上げについてお話を伺います。立ち上げの経緯を教えてください。
 
平泉:
農業生産分野と販売分やではスピード感の違いを感じており、株式会社の方が意思決定のプロセスがスムーズだと考え、小売部門を独立させようと決意しました。
 
田中
会社を一から立ち上げるにあたり、組織作りは特に大切な部分かと思います。どんなことを意識してきましたか?
 
平泉
僕自身、ずっとチームビルディングが苦手で、どうしても自分がいちプレイヤーとして皆を引っ張っていく方が好きだったんですね。ですから、立ち上げのときはとにかく、チーム一丸となってやっていくことを重視していました。
特に大切にしているのは①コミュニケーションや職場の環境整備②チームメンバーのベクトルを同じ方向に向けること③それぞれが切磋琢磨し合うこと、の3つです。
以上の事柄をEnvironment, Vector, Skillの3単語で表し、その頭文字から「えびすの法則」と名付け、社員に意識してもらおうと取り組んでいます。
ダジャレのようにも聞こえるのですが、社員は温かく受け入れてくれていて、ありがたい限りです(笑)
 
今はまだ、組織の仕組み作りの段階ですが、メンバー全員が一緒に進化していく過程を楽しみながら取り組んでいるように感じます。
また、職員が一緒に働きたい人を誘って人が集まってきている状況なので、とても良い雰囲気で前に進めている気がします。
 
田中:今のお話しからも、社員同士の仲の良さや、和気あいあいとした活発なコミュニケーションの様子が伝わってきます。とても素敵ですね。
 

-RISEと出会い、新規事業を創出するまで-

「Cultivate the future maniwa 2023」にて。前段左から2番目が平泉さん、右隣がRISE田中。
「Cultivate the future maniwa 2023」にて。前段左から2番目が平泉さん、右隣がRISE田中。
 
田中:実際にプロジェクトでRISEとのマッチングが決まった時、率直にどう思いましたか?
 
平泉
僕自身、エンジニアだった時代は流行の最先端を追っていた自負がありますが、真庭に来てからはゆったりとした時間の流れの中、知らないことにも気づかずに過ごしているということが多々ありました。
ですので、マッチングが決まった時は、普段触れ合う機会のない東京の方々と交流できること自体、新鮮でしたし、自分の知らないことを教えてもらえるのではとワクワクしました。
 
田中
どのような思いでプロジェクトに取り組みましたか?また、何か得られたものはありましたか?
 
平泉
「私たちは、地域資源を最大限活用し、弊社に関わる全ての人の【3つの豊かさ】の向上を目指します」
これは、弊社の理念です。3つの豊かさとは、時間・お金・心を指しています。
このプロジェクトには、従業員がより3つの豊かさを実現できるように事業を拡大することと、彼らがチャレンジする場を作りたいという想いから参加を決めました。
 
初めてRISEの皆さんにお会いした時、コンサルタントの皆さんの目がキラキラとしていたのが非常に印象的でしたし、リサーチや段取りに率先して取り組む姿勢に感銘を受けました。
一方で、コンサルタント経験が短い方が多かったこともあり、深い部分でこちらの意図が伝わらない場面もいくつかありました。ですので、プロジェクトを進めていくうえで、その想いのズレを補正していくことに気を遣いました。ただ、RISEさんの教育方法やリサーチ方法などのプロジェクトの進め方を肌で感じることができたので、大いに勉強になりました。
 
将来的には、先に述べた3つの豊かさを、従業員だけでなく顧客や生産者といったすべてのステークホルダーに向けて広げていきたいと思っています。
 
田中:私自身、農業に関するビジネスへ関わる経験が初めてだったので、学ぶことが非常に多かったです。ご提案をする中で、一つの型に縛られるのではなく、色々な視点から物事を考えなければならないと痛感しました。
実際に私たちと共に作り上げた 商品の進捗はいかがでしょうか。
 
平泉
8月から販売をスタートし、順調に進んでいるところです。
当初「ペット」というくくりで犬猫用に販売しようとしていたのですが、猫はあまり食べないということがアンケートの結果でわかり、犬用にシフトしました。また、人間が食べてもおいしいという感想もいただいたので「人と一緒にシェアできる」をコンセプトに売り出していきたいと思っています。
 

-地方だからこその課題と、地方だからこその可能性-

田中
きよとうファームを立ち上げてから、地方ならではの課題を感じている点はありますか?
 
平泉
手作業の多い果樹農業は、言い換えると効率化が図れない部分が非常に多いです。ここを何とかしないと、忙しさは一向に解消されません。丁寧な作業を付加価値に転嫁できれば良いのですが、特に地元の方であればあるほど安さを求めてしまう傾向にあると感じています。ですから、価格設定のバランスをとるのが非常に難しいと今でも感じていますが、信念をもって付加価値向上に努めていきたいです。
 
田中
きよとうファームの皆さん、あるいはステークホルダーの方々が、理念に掲げる「時間・お金・心」の豊かさを実現するため、あるいは地方全体を活性化させるために、行政で取り組んでほしいことがあれば教えてください。
 
平泉
「ふるさと納税」と、真庭市が独自で市外への贈答品に補助を行っている「思いやり事業」を利用しており、非常に助かっています。一方で、これらの制度の利便性が可能な限り向上すれば、より多くの人に使っていただけるのではと感じています。
また、今回RISEさんとマッチングしたような事業を通してのきっかけづくり、人材確保のために移住者向けの支援といった、行政だからこそ担える分野について、ぜひ積極的に取り組んでほしいと思います。
 
特に移住者への支援については、住民を巻き込んで将来像を描く必要があると思いますし、人材確保のために何が必要なのかをしっかりと議論する必要があると感じています。
たとえば、 経済を循環させるための事業者を育成したり、スキルを体系化するための仕組み作り、そして移住者に対する住居の確保は大切だと思います。
 
田中
これから地方移住を考えている方にむけて、地方ならではの良さをぜひ教えてください。
 
平泉
都会よりもはるかに自然を肌で感じて生活できるので、自分自身の生活はもちろん、子育てにも大きな影響があると思います。事業で言えば、強豪企業が圧倒的に少ないので、可能性の宝庫だと思います。ぜひ、たくさんの方に地方でチャレンジしてみてほしいなと思っています。
 
田中
今回は、東京のコンサルティングファームと一緒に事業へ取り組みましたが、今後も他県の企業や人々との交流を積極的に行っていきたいとお考えですか?実現のためにどんな仕組みが必要だと思いますか?
 
平泉
もちろん積極的に行っていきたいと思っています。今回は素敵なご縁を結ばせていただきましたが、今後、たとえばマッチングした後に考え方のすれ違いなどが発生した時のリカバリーの仕組みがあると良いなと思います。
 
田中
最後に、きよとうファームさんにとって「PRODUCE NEXT」とはなにか、教えてください。
 
平泉
「フルーツで豊かさを創造する」
 
田中
本日はありがとうございました!
 
従業員の皆さんと共に

従業員の皆さんと共に

 

-取材を終えて 情熱は人々と呼応し実を結ぶ-

当プロジェクト始動の日、平泉さんがどのような想いでここまで歩んでこられたのかを語ってくださいました。ご家族や従業員の方々との嬉しかった思い出を振り返って涙を流されていたことがとても印象深く、昨日のことのように思い出します。
従業員の方々を家族のように想い、お客様を含め関わる全ての方の時間とお金と心の豊かさを追求する平泉さんの情熱に、従業員の方々、RISE一同が呼応し、新たな商品として実を結びました。
今後はこの新商品が多くの方々のもとへと広がっていき、やがて3つの豊かさの向上と、最終的にはProduce Next(しあわせな未来を共に拓く)に繋がっていくのだろうと確信しています。

-プロフィール-

きよとうファーム株式会社
・Webサイト:
 https://kiyotofarm.wixsite.com/home
・RISEと共同で新商品「あたご梨のフリーズドライおやつ」特設ページ:
 https://kiyoto-shop.com/lp/4

 
田中 杏奈(たなか・あんな)
ライズ・コンサルティング・グループ コンサルタント。
PwCコンサルティングで人事システム開発(プログラミング)、タレントマネジメントの構想策定や、人事制度設計などのプロジェクトを経験。
その後ライズ・コンサルティング・グループに参画し、ブロックチェーンやデジタルツイン等の最先端技術を活用した新規事業立案に取り組んでいる。