教育を通じて社会にウェルビーイングの輪を広げていきたい

当社はMissionに「PRODUCE NEXT しあわせな未来を、共に拓く。」を掲げ、社員のウェルビーイング向上へ様々な取り組みを行っています。
 
今回のNext Innovatorは、2024年4月に国内初の「ウェルビーイング学部」を新設する武蔵野大学から、准教授を務める浦谷 裕樹先生にこれから社会に求められるウェルビーイングの在り方と、ウェルビーイング教育の必要性について、お話を伺いました。
 
聞き手:当社代表取締役社長 CEO 北村 俊樹

聞き手:当社代表取締役社長 CEO 北村 俊樹

「人の可能性はどこまで広がるのか」という興味が自らの原動力

北村

まず最初に浦谷先生のご経歴を教えてください。ご出身はどちらですか?

浦谷

生まれは愛知県なのですが、その後横浜や相模原に転居し、今は実家が町田にあります。学生時代は関西に移り住み、2023年の4月に武蔵野大学へ籍を置くまではしばらく関西を拠点に活動していました。

日本におけるウェルビーイング研究の先駆的な存在である前野 隆司先生と前野 マドカ先生というご夫妻がいらっしゃいます。4~5年前にマドカ先生の方が大阪に講演へ来られたので、聴きに行ってコンタクトを取ったんですね。その時以来、当時の勤務先で提供していた講座を一緒に作るなど、ご縁が生まれました。

そして新たに学部作るので手伝ってくれないかとアプローチがあり、今に至ります。
ウェルビーイング学部自体は2024年4月から始まるのですが、私は2023年の4月から武蔵野大学に所属し、立ち上げに向けた準備と少しずつ研究も進めています。

北村

色々な経緯があって現職に至ったのだと思いますが、一番はじめのきっかけは何だったのでしょうか。

浦谷

これまでの人生を振り返ってみると、最初のきっかけは高校時代にあったと思います。

私は勉強とスポーツのどちらも秀でていたわけではなく、どんなに頑張っても立ちはだかる壁があって、どこか劣等感を感じていたんですね。
そこで、人間の可能性はどこまであって、どこまで伸び得るのか、そしてどうしたら自分の能力を伸ばすことが出来るのかということに興味を持ちました。

その後、第一志望の大学に合格し生物学を専攻しました。修士、博士と進んで研究者になるのがスタンダードという環境だったのですが、やっぱり私は生物よりも人間の可能性に興味があるなと思い、大学院を途中で辞めて社会へ飛び出すことにしました。

北村

どのような企業を選んだのですか?

浦谷

池江璃花子をはじめ、科学オリンピック世界一、ピアノの学生日本一など、各分野で活躍している人材を輩出しているEQWEL チャイルドアカデミーで働くことになりました。

採用されたのは大人部門でして、脳トレを行う教室のトレーナーとして、経営者からスポーツ選手まで幅広く担当しました。
そのうち、会社からの要望もあって博士号を取るために大学院へ通いなおし、その後は幼児の能力開発を中心に担当するようになりました。

この会社に勤めているうちに、幼児から大人、シニア向けまであらゆるジャンルの能力開発を網羅したので「人間とは一体何者なのか」がすごくよくわかったように思います。

北村

「能力開発」からウェルビーイング、一見かなり異なるようにも思いますが、つながっていった背景を教えてください。

浦谷

わたしたちは何かへ夢中になっているときにすごく幸せを感じますよね。

没頭すると集中力が上がり、良い結果にもつながりやすくなります。効率よく物事を終えられれば時間も空くわけです。何かに没頭したり、効率よく進めたりするためには相応の能力が必要ですから、そこに能力開発が関わってきます。

空いた時間で好きなことをやって、また没頭して…を繰り返すことで、私たちはより幸せを感じられるようになっていきます。このサイクルから能力開発とウェルビーイングのつながりを見出しました。

また、人はウェルビーイング、すなわち幸せになるだけで、創造力や生産性、学習力が上がり、逆境にも強くなるなど、様々な能力が高まることもあり、ますますウェルビーイングへの興味が深まりました。

ウェルビーイング教育について話す浦谷氏

ウェルビーイングの定義と、企業に寄与すること

北村

ウェルビーイングに生きることの意義は、どのようなところにあるのでしょうか。

浦谷

例えば多くの方は「仕事で成功すると人は幸せになる」と考えるでしょう。実はこれ、逆なのです。本人が幸せ=ウェルビーイングに生きているから成功するんですよ。

子育ても全く一緒です。子供の幸せを考えて両親が自身を犠牲にする場合を数多く見かけるのですが、まずはご両親が幸せを感じていなければ、子供の幸せにはつながっていきません。

北村

なるほど。確かに成功を追い求めるが故、自身の幸せを考えなくなってしまうということは良くある話のように感じます。

浦谷

おっしゃる通りです。まずはより多くの方に「しあわせになる」ということがいかに大切か知ってほしいですね。

北村

企業におけるウェルビーイング向上はどのようなことに寄与するのでしょうか。

浦谷

何をもって幸せを感じるかは人それぞれですが、共通項もいっぱいあります。それらを通して社員全体の幸福度を底上げすると、生産性・売り上げの向上や欠勤率・離職率の低下につながるという研究結果もあるんですね。

2023年の6月にオックスフォード大学とハーバード大学のウェルビーイング研究センターがIndeed社と共同で、アメリカの上場企業1600社に対しWell-beingに関する調査を実施しました。
まず2021年にアンケート調査を行ったのですが、その2年後に同じ企業の業績を見ると、幸福度の高い会社は収益も株価も高くなっていたんです。

参考:https://wellbeing.hmc.ox.ac.uk/news/stock-market-performance/

このようなデータが出てくれば、投資家も幸福度の高い会社に投資したら、数年後に収益が上がる可能性があるとわかって、投資の機運も高まってきますよね。そのような背景もあり、人的資本経営というのは注目されているのだと思います。

北村

ウェルビーイングと似た言葉に「ウェルネス」がありますが、両者の違いはなんですか?

浦谷

ウェルネスはかなり浸透した言葉ですが、ウェルビーイングとの大きな違いは、対象に「社会」があるかどうかです。

これまでの「しあわせ」は個人にフォーカスを当てていたのですが、ウェルビーイングは個人の心と体だけでなく「社会」も良い状態であることを目指しているんです。つまり、人と人とのつながりも良好なものにしていこうというわけですね。

日本では自己啓発本などが流行っていますが、「あなた変わろうね」「これやろうね」「これやったらもっと幸せになる」など、個人の努力に頼りすぎているように感じます。

実際はそれだけではなく、人は「場」の雰囲気などに大きく影響されています。ですので、研究者の間では今、ウェルビーイングな空間・場づくりというのが注目されています。

もちろん自分から繋がりを求めていくのも大切なことです。ただ、社会もしくは所属している会社などがその場を整えていくことも大切だと思います。そこに行くだけで元気が出るような場をつくると、毎日が楽しくなるわけですよね。大変なこともいっぱいあるけれど、それ以上に、乗り越える喜びみたいなものが感じられるようになる。

北村

先日ウェルビーイングイニシアチブの集まりがあって、先端の取り組みを行われている企業の取締役が仰っていたのですが、ウェルビーイング企業を目指すにあたりこの10年間、何を一番重視したかというと「場作り」だと。

社員がこの会社に行きたいと思うような場を作るのが重要で、手を挙げた人がどんどん参加できるような仕組みを作り、それが功を成したとお話しされていました。

働き手に求められるのは個人の能力だけでなく、周囲への思いやり

対談時の風景

北村

今の時代、働き手にはどのような能力や人材が求められるとお考えですか?

浦谷

今は誰しもが「自分の幸せ」を追い求める時代になりつつありますが、これからはもっと周囲の人々、他人の幸せを考えていく世の中になると思います。

たとえばSDGsなど、地球環境に着目する言葉がたくさんありますが、これらは結局、地球がもはや今までの経済開発のやり方では立ち行かなくなりつつあるから必要になってきた考え方だと思うんですね。
自分たちの事だけを考えず、地球のことも考えなきゃ、と。

同じように、働く場でも自分の幸せだけでなく、関わっている人たち全てがウェルビーイングになるということを意識して、実行に移していけるような人材が求められると思います。
自主的に課題を見つけて、解決のためにスピーディーな行動ができる。
そして、自分1人だけではなく、周囲の人々と協力し合いながら進めていくことが理想ですよね。

北村

このようにウェルビーイングな職場環境を作っていくために、私たちが実践できることは何でしょうか?

浦谷

わたしは「共感力」だと思っています。

誰かと会話していて、自分の言ったことを受け止めてもらえると満足感がありますよね。これ意外と重要だなと思うんです。

何も主張を聞かず頭ごなしに否定され続けていると、そのうち「この人には何を言っても通じないな」と思ってしまい、何も意見を言いたくなくなります。
例え自分と違う意見だったとしても、まずは「そうだよね」「なるほどね」と受け止める。で、受け入れられないところや理解できない部分は、そこから話し合って調整していくと。

これは子供と親、上司と部下、どんな人間関係でも全て一緒だと思うんですね。コミュニケーションの基本はまず受け止めること。

今は心理的安全性も重要視されていますが、その根本は、組織が目的としていることを達成するためには「何を言っても大丈夫」という雰囲気づくりにあるのかなと思います。

北村

当社はお客様にコンサルティングサービスを提供することでフィーをいただいていますから、個人・会社共に当然成長を続けていかなければなりません。上場企業としては業績や株価の上昇も当てはまりますね。
ですから、人材開発の観点では、どうやったら業績へプラスにつながっていくのかというところを意識して注目していますが、いわゆる先天的な素養はなかなか変えられません。

ですから、個人の特性を診断するようなツールを駆使しつつ、それぞれの得意分野を活かせるような場を提供することが、本人にとっても、周囲の人間やチームにとってもウェルビーイングにつながるのではと思っています。

これからのウェルビーイング教育・学部について

北村

ウェルビーイング学部というのは日本で初めて設立されるとか。

浦谷

はい、そうなんです。卒業すると、ウェルビーイング学士を取得できます。

認可が通るまでにはそれ相応の労力をかけたのですが、やはり認可されるというのは知名度の面でも大きな成果ですね。

北村

ウェルビーイング学部での目標を教えてください。

浦谷

ウェルビーイングはまず自分の幸せを考えるところから始まり、それを周囲に広げていく、ということは先ほどお伝えしましたが、実行のためには方法論や能力をきちんと身につける必要があります。そういった技術を学ぶ場として、門戸を開いています。

今まで当たり前とされてきたタイプのリーダーとは異なりますが、中心になって組織を引っ張っていくのではなく、組織を視えない部分から支えて、メンバーひとり一人が居心地の良さを感じる場を作っていけるリーダーも 輩出していきたいですね。

北村

4月から早速授業が始まるわけですが、どのような授業を計画しておられますか?

浦谷

学部長からは「できるだけ教員が話さないように」とお達しを受けておりまして、100分授業の中で私が話をするのは20~30分くらいに留める予定です。あとは学生たちに対話をしてもらって、グループ活動を通して自ら学んでいくスタイルを想定しています。

聞いているだけというのは、話す方も聞く方も楽な面が多いのですが、せっかく学生が集まっているので、集まらないとできないことを実践してもらいたいなと。その方が学習効率が上がることもわかっていますし。

また、実際にウェルビーイングがどんな状態であるかを体感してもらいたいなと思います。先ほど北村さんも仰っていましたが、当たり前のことであっても意識しないとわからないです。一度「これだ」と思えたら、どんどん他の人にも分かち合えるようになると思うので。

北村

次に入ってくるのが1期生とのことですが、これから先求める学生像を教えてください。

浦谷

まずは一緒に時代を切り開いていく起業家精神を持ち、何か物事を自分で作っていくぞ!という気概があってほしいですね。

また、自己決定力も大切な要素です。物事に対してモチベーションが出るかどうかは、外的な要素も強いですが、結局最後は自分で決めたかどうか、なんですね。自分で決めたことは責任をもってやり抜く意思を持ってほしいなと思います。

まだ始まったばかりですが、ゆくゆくはこの学部の卒業生を通してウェルビーイングの輪を世の中に広げていきたいと思います。

北村

ご自身がウェルビーイング教育の中で今後着目したいテーマは何ですか?

浦谷

そもそも「ウェルビーイング」はまだ一般的な言葉ではないんですね。特に教育界における知名度はまだまだです。

たとえば高校生に「ウェルビーイングという言葉を知っているか」をアンケートを取ると、知っている人は10%以下になってしまうんです。
ただ、ウェルビーイングについて説明をすれば、みんなが求めている理想の姿そのものなので、すっと受け入れてもらえます。
それをいかに研究成果や科学的要素を絡めながら、知識として普及できるか、が課題だと思います。

既に大企業を中心に多くの企業がウェルビーイングを意識した取り組みを進めてくださっているので、まずはそういう成功事例をもとにベストプラクティスを集めるのが重要ですね。

また指標みたいなものを作って、何をしたら上がるかっていうのがわかると今後の取り組みに生かしていくことが出来ますから、そこにも着手していきたいですね。

これからも様々な学校や組織が取り組みを続けて、あちこちでウェルビーイングの花が咲くようになっていってほしいなと思います。

北村

「ウェルビーイング」は、これまで私が考えてきたことを一言で表すのにぴったりの言葉でした。

社員の心身が健康であり、人との繋がりや生きていくうえでのやりがいを感じられていれば、より仕事や目の前にあることを一生懸命やれるようになるし、成果にも繋がっていきます。
言葉で説明すると、ごくごく当たり前のことではあるんですが、意識しないと抜けてしまいがちでもあります。
ですから、言い続けることがやっぱ重要かなと思いますね。

2022年にはミッション・ビジョン・バリューも刷新しました。「しあわせな未来を、共に拓く。」ことを目指して引き続き私たちもウェルビーイングな環境づくりに取り組んでいきます。

では最後にお聞きします。浦谷先生にとって「PRODUCE NEXT」とは何でしょうか。

浦谷

「ウェルビーイング教育を日本に、世界に」

ウェルビーイング教育を日本に、世界に