サステナブルな社会実現へ -2024年本格化する企業の情報開示-

鼎談:東京大学 高村ゆかり氏 × ライズ・コンサルティング・グループ 北村俊樹、中司佳輔

2023年9月に東証グロース市場に上場した総合コンサルティング会社「ライズ・コンサルティング・グループ」は、クライアントバリューの最大化と人的資本である社員の成長のバランスを重視し、ウェルビーイングを土台とした経営方針を掲げている。
同社が注力している支援テーマの1つがGX(グリーントランスフォーメーション)だ。同社のカーボンニュートラル達成に向けた戦略と、企業の情報開示の現状、今後の展望について、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と、ライズ・コンサルティング・グループの代表取締役社長・CEOの北村俊樹、常務執行役員の中司佳輔が意見を交わした。
 
※本記事は日本経済新聞電子版に掲載されていた記事を、許可を得て転載しています。

情報開示は資本市場に アピールする貴重な機会

日本の情報開示の潮流は、人的資本の管理とサステナビリティへの取り組みに重点が置かれるようになりました。
この潮流が企業に与える影響についてお聞かせください。

高村

企業を取り巻く環境は、かつてないスピードと規模で変化しています。企業は、積み上げ型ではなく、先を見た企業経営が重要になってきていると思います。環境・人権などの社会課題にいかに企業が対応しているかについても開示が求められるようになっています。

ご存じのとおり、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が2023年6月に全般的なサステナビリティの開示の基準と、気候変動に関連する基準を出しました。これらの国際基準を参照しながら、現在、日本版の開示基準の作成が進んでいます。

日本版の基準は、情報を利用する投資家に有用な情報を提供する高品質な基準、そして国際基準にできるだけ整合的な基準を作成するという方針で作業が進んでいます。2024年3月までに草案を作成し、企業や関係者の皆さんの意見を聞く予定です。その後、出された意見なども考慮して、遅くとも2025年3月には日本版の基準を公表することになっています。

日本版の基準ができた暁には、その主要な基準が企業の有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示の開示項目基準になる可能性があります。同時にグローバル企業は特に欧州の動きにも注意する必要があります。欧州では2023年1月に法令が効力を発生し、サステナビリティ情報開示の詳細な基準が発表されています。そこには気候変動だけでなく、サーキュラーエコノミー(循環経済)や自然資本、人的資本に関する基準もすでに入っています。欧州の基準が先行して包括的に動き出す状況の中、日本の企業も、自社の事業の実態を考え、どう開示するか随分悩まれていると思います。

2023年を私は「開示元年」と呼んだのですが、2024年、開示は本格的に取り組まなければならない経営課題になります。開示は、企業が中長期的な視野を持ち、社会課題にどう取り組もうとしているのかを社会的にも資本市場にもアピールをする、非常に貴重な機会だと思います。企業経営に中長期的な視点を統合し、経営を強化する機会になることも期待しています。

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏

「攻め」と「守り」の考えでGXを実現する

2024年は企業の開示が本格化していくということですが、貴社は企業に対してどのようなアプローチで情報開示に向けた支援を行っているのでしょうか。

中司

まず私たちのGXチームの役割を説明させてください。クライアントの悩みを解決するにはジェネラルな問題解決スキルだけでなく、専門性が重要になってきます。環境問題に関しては政策に影響を受ける部分が大きく、新しい規制ができると企業は都度、その対応に迫られます。そうした時流をタイムリーにキャッチアップするためにGXチームがいるのです。

サステナビリティの情報開示に関しては、プライム企業を中心に開示の取り組みが進み始めていますが、GHG(温暖化ガス)排出量削減に向けた実行策の推進はこれからのフェーズです。開示の目的は、可視化した上で減らす実効的なプランがとれるかどうかが本質です。環境規制への対応ができてこそ実効的な企業の成長につながると思います。一方で、GXを起点とした新しい環境に関する事業機会が生まれてくることにも期待しています。こうした企業の事業創造をサポートしていくことも私たちの重要な役割です。

株式会社ライズ・コンサルティング・グループ 常務執行役員 パートナー GXプラクティスチームリーダー 中司佳輔

株式会社ライズ・コンサルティング・グループ
常務執行役員 パートナー GXプラクティスチームリーダー 中司佳輔

北村

GXには当社としてもかなり力を入れています。GXはカーボンニュートラル達成に向けた変化を好機と捉えた「攻め」と、危機と捉えた「守り」の両方の取り組みが必要であると考えます。開示対応、特にスコープ3や1、2の開示は「守り」と捉えています。守りだけでは新しい事業が生まれないため、新事業創出支援の「攻め」と「守り」の2つをバランスよい形で行うことがGXの基本的な思想です。それに付随して大きなニーズになっているのがGHG排出量の可視化です。

株式会社ライズ・コンサルティング・グループ 代表取締役社長 CEO 北村俊樹

株式会社ライズ・コンサルティング・グループ
代表取締役社長 CEO 北村俊樹

グリーントランスフォーメーション(GX)の考え方

グリーントランスフォーメーション(GX)の考え方

GHG排出量の算定はサプライヤーの取引額ベースを提唱

開示の課題の1つにスコープ3のGHG排出量をどのように算定するか、といったこともあると思います。

中司

GXチームはGHG排出量の可視化や政策対応として、実質的に効果がある開示方法の提案を強みにしています。それがスコープ3の排出量の算定です。従来のスコープ3の考え方は製品・サービスの購入額に対する排出量原単位を掛け算する形でしたが、私たちはこれをサプライヤーとの取引額に切り替えて算定することを提唱しています。

基本的にはA社がサプライヤー・B社と取り引きしている取引額に対して、スコープ1、2とスコープ3の上流で出した排出原単位を掛け算する方法です。A社が排出量を毎年開示したタイミングで排出量原単位が更新されるので、毎年排出量原単位が減っていくことになります。この更新された数字を使うことで、クライアントのスコープ3の排出量削減が実現できるという考え方になります。

スコープ1、2のフェーズは、上場企業が公開している排出量を私たちがデータベース化して、排出量原単位の更新やデータベースの提供を実施させていただきます。

中司:私たちはスコープ3のGHG排出量の算定にサプライヤーとの取引額と実排出量ベースの原単位を活用することを提唱しています

中司:私たちはスコープ3のGHG排出量の算定にサプライヤーとの取引額と
  実排出量ベースの原単位を活用することを提唱しています

高村

一律に定まった既定値で排出量を計算するのではなく、実排出量ベースで算出されているということですね。企業の削減努力が見え、アピールできるようになるという点で、スコープ3の情報開示に対して攻めていく方法論のようですね。サプライヤーベースで実排出量を知りたいという企業は多いですか。

中司

SIer(システムインテグレーター)や通信会社などは管理する製品が少ないので、サプライヤーベースで知りたいという企業は多いです。一方、製造業などは取り扱う製品量が多く、製品ベースで実排出量を取ることが非常に困難です。そのためサプライヤーベースで実排出量を取った上で、重要な製品のみ製品ベースで実排出量を取るというようにハイブリッドで進める企業もあります。業種の特性ごとに訴求方法を考える必要性を感じています。

高村

業界の中でもそれぞれの企業が異なる方法論で、実排出量を算出していては比較ができません。それをできるだけ統一しなければいけないという問題意識を持っているので、面白い取り組みだと思います。

高村氏:スコープ3の情報開示に対して攻めていく方法論のようですね

高村氏:スコープ3の情報開示に対して攻めていく方法論のようですね

「人」を中心とした経営にこだわり、企業の成長につなげる

貴社の今後の展望についてお聞かせください。

中司

環境問題は日本や海外の政策の要請に大きな影響を受けますが、本質的にはそれをどうやって事業化して企業の成長につなげていくかということだと思っています。それを1社でやるのは限界があるので、様々な企業を巻き込んでオーケストレーションを組んで課題を解決していく。私たちがその支援をできればと考えています。

北村

当社自身も2023年9月に東証グロース市場に上場しましたので、上場企業として人的資本の開示やGXなどに取り組んでいきたいと考えています。自社としてこだわってきた「人」を中心とした取り組みや発信をより強化していく考えです。また、私たち自身が先陣を切ってリードしていく存在を目指していきたいと思います。

高村

「人」がいかに企業にとって大事かということですね。大きな変化の中で、企業経営には新しい視点、専門的な知見をどう得ていくかが課題となっています。そこにもコンサルティング会社に企業が期待する役割があると思います。

北村:自社としてこだわってきた「人」を中心とした取り組みや発信は、より強化していく考えです

北村:自社としてこだわってきた「人」を中心とした取り組みや発信は、より強化していく考えです

対談風景:東京大学 高村ゆかり氏×ライズ・コンサルティング・グループ 北村俊樹、中司佳輔

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2024.02.05