Produce Nextへの挑戦 ~未来に向けた新しい価値創出にチャレンジし続けるリーダーを訪ねて~
ライズ・コンサルティング・グループが経営理念として掲げる「Produce Next」を体現する企業を訪問し、リーダーからお話を伺う「Produce Nextへの挑戦」。今回は、パーソルキャリア株式会社を訪ね、代表取締役社長 瀬野尾裕氏と弊社代表取締役社長 CEO北村俊樹が「人々がキャリアオーナーシップを持ってはたらく社会をつくるには」をテーマに対話を重ねました。
パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長 瀬野尾裕氏(左)
ライズ・コンサルティング・グループ 代表取締役社長CEO 北村俊樹(右)
パーソルキャリアが取り組む、次の未来を創るためのチャレンジとは
北村:
私たちは日本の再生のために、コンサルティングサービスを通じて顧客企業の次の未来を創造することを「Produce Next」という言葉に込め、経営理念としています。まずは、御社にとっての「Produce Next」とは何か、お考えをお聞かせいただけますか?
瀬野尾氏:(以下、敬称略)
我々の役割は「キャリアオーナーシップを育む社会を創造すること」、そして、これが未来に向けた当社の存在意義であると考えています。パーソルのグループビジョンは、「はたらいて、笑おう。」であり、はたらくにあたって誰もが持つべき指針こそ「キャリアオーナーシップ」であると考えています。
北村:
キャリアオーナーシップの重要性をどのように考えていらっしゃいますか?
瀬野尾:
これは釈迦に説法ですが、今、社会は様々な側面において構造的に変化していますよね。産業のデジタル化は加速していますし、終身雇用や年功序列は崩壊していく流れにあります。テクノロジーの進化により新たに生まれる仕事も相当数あるのに、なくなる仕事が出てくるというネガティブな情報も流れている。そして、直近では新型コロナウイルス感染症の流行が人々の価値観を劇的に変えました。今後も、様々なものが構造的に変わっていくのは明らかで、はたらく人々の間には不安が蔓延しています。
だからこそ、我々の役割として、はたらく人々が自分の人生やキャリアのハンドルを自分で握り、ポジティブに進んでいける世界を築いていきたいと考えています。
パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長 瀬野尾裕氏
北村:
具体的にどのようなサービス展開を考えていらっしゃるのでしょうか?
瀬野尾:
まず、弊社の代表的なサービスである転職・採用のご支援などは今後も事業の柱として展開していきます。多様な機会を提供し、経験していただくことで、経験の資本やキャリアをつくるためのコミュニティ・人間関係などが形成されていきますから。
他方で、副業というはたらき方や、副業を経て新たなキャリアを模索するという流れも生まれ始めています。自分でキャリアを築いていくためには自己学習し、研鑽していくことが大切です。我々の本業は人材領域ですから、学んだことが仕事、すなわち報酬につながるビジネスモデルをつくっていきたいし、そういった体験を、はたらく人々に新たに提供していきたいと思っています。
人々がキャリアオーナーシップを持ってはたらく社会をつくるには
北村:
パーソルグループ様が2021年6月~2022年3月、世界122カ国・地域を対象に実施された第2回「はたらいて、笑おう。」グローバル調査で、日本は、「仕事における喜びや楽しみを感じている」順位は103位と、他国と比べて低い結果になりました。他方で、「自分の仕事は人々の生活をより良くすることにつながっている」と自負する順位について2021年こそ前年度比マイナス8ポイントの46位でありましたが、2020年は5位と高い順位でした。ある種、滅私奉公の精神を表したような結果です。やりがいと貢献が両立する日は来るのでしょうか?
【質問項目】
Q1. あなたは、日々の仕事に、喜びや楽しみを感じていますか?(はたらくの「体験」)
Q2. 自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか?(はたらくの「評価」)
Q3. 自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?(はたらくの「自己決定」)
瀬野尾:
まさに企業戦士の仕事感が色濃く残っていますよね。その経験をしてきた私ですら萎える結果ですので、未来の若者はもうこの感覚には付き合いきれないのではないでしょうか。やはり、企業が変わるべきタイミングが来ていると思います。
弊社はもちろん、多くの企業が、個人と向き合い、「キャリアオーナーシップを育む環境をつくる」というモードになっていかなければならない。まずは大手の企業様から動いていただけるよう、我々の目指す世界を伝えていきたいと思っています。
北村:
企業、とくに経営層が変わっていかなければなかなか難しいと思います。御社において、企業の経営層に対する呼びかけを行う動きなどはあるのでしょうか?
瀬野尾:
まず社会に向けて取り組んでいるのは、社員のキャリアオーナーシップを育む先進的な取り組みをされている企業と「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」を2021年に設立しました。弊社が事務局となってキャリアオーナーシップに関する様々なテーマで議論・実験・検証を行い、社会に発信しています。また、小中学校向けに「“はたらく”を考えるワークショップ」というキャリア教育の講師派遣授業プログラムを行っています。
そして、ご指摘の通り、このような取り組みをさらに加速させていくには、企業の経営者の方々や人事責任者の方々と会話を促進するサービスを考えていかなければなりません。今まさに、人手不足により人事や採用といった人材に関するアジェンダの優先順位が各社の中で上がってきています。必要な人材を採用できるだけの人事制度や人材要件を作るうえで、人事部の重要性が高まり、経営、現場、人事との距離が近づいてきています。
そこに、弊社のプロダクトやサービスをぶつけて、人事制度改革や採用のテコ入れなどを通してキャリアオーナーシップが育まれる環境をつくっていただこうと考えています。そのために、具体的にどのプロダクトやサービスを活用いただくかを検討している状況です。
自社において社員のキャリアオーナーシップを育むには
北村:
弊社でも、個人がキャリアオーナーシップを持って、はたらくことを重視しています。社員が自律的にキャリアを築いていけるよう、まずは土台となる組織風土として、経営陣に対しても気軽に相談できる風通しの良さや、意思決定の速さ、チャレンジャーを伸ばしていくこと、卒業する社員がその先のキャリアにおいて活躍できるよう会社として全力で後押しすることを大事にしています。
その上で、「キャリアの選択肢が豊富にあることを見せ、本人の希望を柔軟に叶える社内制度」「コンサルタントとしてのキャリアのゴールを明示し、そこに早くたどり着ける社内制度」の2軸で社員のキャリア自律を促しています。
ライズのキャリアオーナーシップ
~Up and/or Supported(出会った瞬間から人生の長期パートナー)という考えを重視~
瀬野尾:
具体的にどのような制度を設けているのですか?
北村:
例えば、前者であれば、担当する業界やサービスのセグメントを設けず、全コンサルタントが1つの事業部に所属し、幅広いテーマの案件に従事するOne Pool制を採用しています。多くのコンサルティング会社では、業種やテーマ別に組織が分かれていますが、その場合、最初に配属された分野で向こう数年のキャリアが決まってしまい、別組織に行こうとすると待遇が下がってしまうケースもあります。そうではなく、豊富な選択肢から柔軟に希望を叶えられるように、という意図でこの体制をとっています。
後者においては、コンサルタントのキャリアゴールとして、(1)パートナーという立場にまで昇進して経営に携わる、(2)多様なスキルを培い事業会社やスタートアップのCxOとしてキャリアを歩む、(3)起業する、の3タイプを見せながら、全社経営会議で経営の情報を多く開示する、若手社員が経営を疑似体験できる機会をつくる(Young Board制度)、フェアな評価体系で速く明確に昇級・昇格できるようにするといったことに取り組んでいます。
というのは、コンサルタントがキャリアオーナーシップを持つ上で最も重要で、けれども難しいことだと私が感じているのが、キャリアゴールが見えず、そこに早くたどり着けるイメージも持てないということです。この課題を払拭するために、先ほどお話しした制度や取り組みに徹底してこだわっています。
瀬野尾さんは、御社の社員の皆さんのキャリアオーナーシップを実現していくにあたって難しさを感じていらっしゃることはありますか?
瀬野尾:
北村さんのお話に非常に共感しましたし、課題も同じだと感じました。
私は、キャリアオーナーシップを育む3つのステップとして、次のことを社員に伝えています。
(1)自らの可能性と機会をまず知る
(2)ありたい姿やなりたい姿、すなわち、キャリアゴールをしっかり描く
(3)経験を繰り返して経験資本を積み上げていく
ただ、現状は、キャリアゴールを描く以前の段階で、そもそも自分の可能性や機会を知っている人がそう多くありません。弊社はもちろん、世の中の他の企業の方々とお話をしていても同様に感じます。自分が所属する小さな組織から越境していかないために、自分の可能性も選択肢も知ることができていない。御社がキャリアの選択肢が豊富にあることを見せることを重視されているというお話がありましたが、弊社においても、この1歩目の課題感がありますね。
北村:
それに対してどのような取り組みが必要だとお考えですか?
瀬野尾:
会社組織自体が個人に向き合っていく姿勢や取り組みが必要だと思っています。可能性と機会を知らないだけでなく、Z世代を中心に考え方が多様化していますし、はたらくということに対して不安を抱いている人も多いですから。このような状況で、1人ひとりが自分の人生やキャリアのハンドルを握れるようになるには、例えば、越境できるようなコミュニティづくりを支援したり、キャリア対話の機会をつくったりすることを会社が取り組み、ワークだけでなくライフも含めて、個人と向き合っていく必要があると考えています。
あとは、会社組織が、社員のライフの時間を奪わないことも重要です。個人と向き合うと、家族との時間や趣味の時間を充実させたい、育児や介護に時間が必要である、学びたいといった、我々がこれまで知らなかった、個人の思いや抱えている問題があることがわかりました。その時間を必要以上に奪わず、長時間労働を是正して、社員に個人の時間を提供していく。これが、キャリアオーナーシップを育むベースとなる考え方だと思いますし、個人が抱える問題を放置して労働時間を追求しても、生産性は落ち、会社も個人も成長しません。
今、第一歩目として我々がこだわっているのは、女性管理職比率です。弊社の社員に占める女性の割合はおよそ6割ですが、管理職における女性比率は3割です。これを、2030年に6割くらいに持っていきたい。女性はこれまでの社会的経緯から「子どもを持つとなると結局は私が育てる」と想像していると思うんです。そんな女性たちの隣で、男性は労働時間を費やして、親になっても都合のいいときしか家庭をフォローしない人がまだまだ多い。それでは女性はキャリアに対して前向きになれないし、純粋に萎えてしまいます。男性の育児参画はあくまで一例ですが、こうした違いをなくして男女の別なくフラットにしていきたいのです。
そのために、女性の年齢やライフステージごとの悩みに徹底的に寄り添い、活躍の阻害要因を取り除く取り組みを始めています。その一つが、女性特有の健康問題への対応です。実に女性の約75%が頭痛や腹痛、精神的なイライラなど何らかの症状を感じていて、そのうち5割超が仕事に支障があるとされています。女性自身も我慢して放置しているケースも多いですし、ましてや周囲の管理職は知識がなければ相談されても適切に対応できません。こうした問題を女性だけが個人で背負うのではなく、会社全体の問題として捉えて、向き合っていこうとしています。健康でなければ、キャリアオーナーシップで大切な前向きで意思ある選択なんてできませんから。
会社として社員のキャリアオーナーシップを育む環境をつくるんだという御社の考え方は非常に先進的ですし、だからこそ間違いなく優秀な方々が集まり、そして残っていくだろうと思いますよ。
事業で利益を上げ、社員の育成に還元していくには
北村:
御社のビジョンや取り組みについて伺って経営者として1つ感じたのが、本業で利益を出すことの重要性です。まずは圧倒的に稼げる組織をつくり、そこで得た利益を、社員のケイパビリティを高めるために、個人の可能性を広げるはたらき方やワークライフバランスのために投資する。また、変に社員1人ひとりに寄り添うのではなく、本業のコンサルティングでしっかりとお客様に価値を提供すること。そして、仕事だけではない個々人の毎日の時間を充実させるところまで会社としてサポートしていくことが大事だと思っています。
この点で弊社は、コンサルティング業界の構造的課題であるコストや品質などを徹底し、高い成果を出すビジネスモデルを確立できているという自負があります。さらにこれからは、よりお客様に踏み込んで、我々と会話し、定期的に接点を持つだけで視座がぐっと上がる、また、視座が落ちそうになったときに引っ張り上げられるといった関係性を作れる組織や人材を作ること。それにお客様が価値を感じていただけるような領域で勝負していきたいと考えています。従来のコンサルティング現場で行われていた、何かを知っているとか、アウトプットを大量に速く出せるといったところでの勝負には未来も価値もないと思っており、現在役員も巻き込んで、これからのコンサルティングというテーマを積極的に議論しています。
瀬野尾:
すばらしい議論だと思います。これまで様々なコンサルティング会社にお世話になってきましたが、正直なところ、ある程度の情報は自分たちで整理できるので、大量のアウトプットにはさほど興味を持てないんですよね。厳選した情報をもとに、質にこだわった1枚のスライドで出すくらいの迫力でお願いしたい。
その点で、不器用ながらも顧客に課題に踏み込んできて、顧客のために何かを提供したいと考え、自発的に動くことが出来るコンサルタントの方は、非常に良い仕事をされていて、価値を感じます。
北村:
その点で、1つ弊社が課題に感じていることがあります。弊社では月1回、社員にエンゲージメントサーベイに答えてもらっているのですが、「やりがい」に関するスコアが一向に低いままです。要因を突き詰めて考えると、調べて何かをアウトプットする、あるいはヒアリングをして議事録やきれいな資料をつくるだけの価値提供ではもはや満足しておらず、それよりも、先ほど話したようにお客様に踏み込んで、対話をしてお互いの視座を上げるといった価値提供ができる案件に携わることにこだわっていることが見えてきました。ここをなんとかしたいと思っています。
瀬野尾:
我々HR業界の最前線でお客様と向き合っている社員もまさに同じですね。もっと顧客に貢献したいという欲求があり、貢献したことが実感できないと辞めていく。大事なことだと思います。
やりがいをどのように高めていくかというところで1つテクニカルな話をすると、不断のBPRや、いわゆる事務的な組織のCoE(Center of Excellence)化などを行い、いかにしてピュアセールスタイムをつくるかというところに力を入れることから始めるのがいいと思います。御社で言うといかにしてピュアコンサルティングタイムをつくるかということですね。我々もまだ全然できていないところですが。
北村:
確かに、ピュアコンサルティングタイムの純度を上げていくことは、すぐにできることですね。我々はまだアナログ気質で、紙ベースで煩雑な作業を行っているところがあるので、コストをかけてでも改善していこうと思います。
長期的な人材育成については、どのようにお考えでしょうか?弊社は、社員から短期の成長環境は高く評価してもらっていますが、長期の育成については評価が低い状況です。卒業する際にはその後のキャリアの道筋まで支援するつもりでいるものの、その考えがまだ社員に届いていないと感じています。瀬野尾さんから何かヒントをいただけるとうれしいです。
瀬野尾:
長期の人材育成は、ものすごく難しいテーマで、パーソルグループとしてもまさに課題視しています。我々の場合、2030年という未来の人材ポートフォリオを、事業ポートフォリオに連動させて組もうとしているというところです。人的資本論の考えに則って考えることで実践的な育成のスタイルができあがるのではないかと思いますが、まだ検討中ですね。
北村:
人的資本の考え方は重要ですね。社会のためにコンサルティング会社として長期的な目線を持ち、どう社内の仕組みを作っていけるか、そして次の世代へ何を残していけるか、我々も一緒に考えていきたいと思います。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。