ウェブメディア「OctoKnot」において、ESGやSDGsの違いや成り立ち、未来について対談を実施しました

公開日:2023/02/07

NTTデータの「金融×デジタル」を推進する部隊が編集部として運営するウェブメディア「OctoKnot(オクトノット)」のインタビューにおいて、当社のシニアマネージャーである石野和俊が、企業のサステナビリティ経営の専門家である金田さんと、機関投資家のESG投資の専門家である平野さんからお話を伺いました。
 
ウェブメディア「OctoKnot(オクトノット)」のインタビュー
 
ESG、SDGs、CSR、CSV…何をどこからどう見ていけばよいのか?そもそも何が違うのか?これからどうしていけばよいのか?そんなお悩みを持つ、投資家や企業の担当者の疑問に、投資家とサステナビリティ経営の専門家が答えます。世論をリードする専門家は、規制やグローバル標準といった規定演技に留まらず、自由演技で魅せているESG経営企業を見分けて高く評価しています。その秘訣もわかる、とても読み応えのある記事です。
 
【目次】

  • ・SDGs/ESGへの取組みとはなにか?
  • ・ESGとSDGsの違いとは?
  • ・SDGs/ESG対応を進める実務上のポイント
  • ・これからのESG/SDGsで重要なのは何か?

石野:
本日は企業のサステナビリティ経営の専門家である金田さんと、機関投資家のESG投資の専門家である平野さんから様々なご意見を伺います。オクトノット読者である企業の担当者の方に活用いただければと思います。
 
はじめに、あらためてSDGs、ESGへの取組みとは何か?おさらいから入りたいと思います。金田さんから伺ってもよろしいでしょうか?

SDGs/ESGへの取組みとはなにか?
金田さん:
私は1999年からですから23年間、いわゆるサステナビリティ・オフィサーとして企業セクターに身を置いていますので、まずは2000年前後からの潮流について、当事者感覚も含め、俯瞰してお話したいと思います。(図1参照)
 
図1:サステナビリティの経営統合プロセス(日本のグローバル企業のケース)

図1:サステナビリティの経営統合プロセス(日本のグローバル企業のケース)

 
1999年当時は、児童労働や強制労働を含む人権侵害、また、酸性雨やオゾン層の破壊などの環境危機がメディアで取り上げられ、企業としては、サステナビリティというよりCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)という言葉に敏感でした。
 
ただし、そのCSR活動はまだ経営との統合が進んでいるとは言い難く、課題解決に根本的に取り組むというよりも、一過的な寄付などのPhilanthropy、いわゆる社会貢献活動を通じて対処する企業も多かったと思います。
 
この状況を憂慮した国連アナン事務総長による同1999年の世界経済フォーラムでのアピールもあり、翌2000年、国連グローバル・コンパクトが発足しました。この時期は、「事業を通じた課題解決」というよりも、「事業プロセスの健全性」や「外部不経済の内部化」が国際NGOなどから時には抗議行動を伴って求められたCSRの時代だったわけです。
 
その一方で、同2000年には、ミレニアム開発目標(MDGs)が掲げられ、目標達成に向けたプロセスの中で、貧困解消を目的とした途上国ビジネス、いわゆるBOP(Bottom of the Pyramid)に2009年前後から注目が集まりました。
 
また、並行して、2011年には、ビジネスを通じて社会課題を解決するアプローチをまとめたCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)論文がマイケル・ポーター教授によって発表され、経営者の間で大きな話題となりました。
 
このように2010年前後から、徐々に、“事業で扱う製品・サービス(の課題解決力)”に光が当たり始めました。言い換えれば、収益活動であっても、社会課題の解決に大きく貢献するものであれば、アプローチとして許容される風潮が現れ始めたわけです。この一連の動きが2015年9月に国連総会でのSDGsの採択という形で結実したと理解しています。
 
日本の場合、2020年の政府による脱炭素宣言で、グリーンビジネスは一気に加速しています。この10年はビジネスで社会課題解決にチャレンジするCSVの時代と言っても過言ではないでしょう。
 
最後に、Philanthropyに対する企業側の認識の変化についても触れておきたいと思います。
それまでPhilanthropy、すなわち、寄付やプロボノ/ボランティア活動に代表される社会貢献活動は、「受け身」「単発」「お付き合い」「余裕があるときに実施」など経営から切り離された活動と認識されることが多かったと思います。しかし、このCSVの波に乗る形で、特に、サステナビリティ先進企業の間で、高度な戦略性を伴って経営に統合され始めています。この点については、後ほど、詳しくお話ししたいと思います。
 
石野:
10年前にはまだここまでの機運はなかったと感じています。SDGsという目標が発端なのでしょうか?
 
金田さん:
これまでのビジネスの進め方、すなわち、BAU(Business as usual)のままで、経済や社会の基盤である地球の持続可能性を確保できるのか?という漠然とした危機感は企業の間でも共有されていましたが、「誰がやるの?」が決まっていませんでした。193ヵ国の合意によって、政府も企業も市民社会も皆が一緒になって取り組むことが決まり、地球や社会のサステナビリティに関する企業の機運は高まりました。
 
他方、企業がこの“サステナビリティ・コミュニティ”にプレイヤーとして進んで入ってきたのは、繰り返しになりますが、収益を上げながら社会課題を解決する手法が社会から認められ、さらに、求められたことが大きかったと思います。SDGsの採択にはそのような意味が含まれています。
 
そうなると社会課題解決に向けたESG投資が始まり、サステナビリティ市場が形成されます。企業は自社のサステナビリティも同時に高められるため、その意味においても、機運は高まりました。
 
石野:
SDGs/ESGに取組んでいる企業を機関投資家目線で評価し、うながしていく立場の平野さんからはいかがでしょうか?
 
平野さん:
我々機関投資家は責任ある投資家として、投資先企業と対話を行うなどして、中長期的な視点から企業価値向上と持続的成長を促すことにより、投資リターンを向上させ、投資の好循環、ひいては社会全体の好循環を実現することを期待されています。
 
そのため、当社は投資先企業に対して、ESG課題への取組みを含め、当社が考える望ましい経営を実現していただくようエンゲージメント(建設的な目的を持った対話)と議決権行使(株主が株主総会での決議に参加し、議案に対して賛否を投票すること)を行っています。また、投資判断においてESG要素を考慮することにより、ダウンサイドリスクの低減とリターンの向上に取り組んでいます。
 
重要性の高いESG課題に対応しなければ事業の不確実性を高め、事業機会を失うおそれがあるため、企業がESG課題に係るリスクを適切に管理し、ESG課題の解決を新たなビジネス機会と捉えて適切に経営戦略に反映することが必要不可欠です。
 
また、企業価値とは将来にわたって生み出されるキャッシュフローの現在価値ですから、その源泉の一部であるESG課題等の非財務情報を分析することが投資リターンの向上には欠かせません。
 
そして、当社はお客様から大切な資金をお預かりしている立場として、長期にわたって持続的なリターンを提供するために、ESG課題に積極的に対処し、社会全体の持続可能性を高めていくことが期待されています。
 
是非、企業の皆様には自社にとって重要性の高いESG課題を意識していただきたいと考えています。
 
石野:
格付け会社提供のESGスコアを利用するのではなく、野村アセットマネジメントさんでは独自のスコアリングをなさっているのが特徴的ですね。
 
平野さん:
当社は投資先企業のESGの実力を適切に評価するため、自社ESGスコアを開発し、投資判断に活用しています。企業が開示した非財務情報をもとに、企業を深く調査分析しているアナリストと業種横断的にESG課題を分析することが多いESGスペシャリストが、各企業の業種特性を考慮した上で「環境」「社会」「ガバナンス」「SDGs」の4項目について、リスクと機会の両面から評価しています。

ESGとSDGsの違いとは?
石野:
ESGとSDGsはどう違うのでしょうか?読者も気にされている点だと思います。
 
平野さん:
明確に区分けすることは難しいのですが、企業価値に対する位置づけから考えると分かりやすいと思います。企業価値とは将来にわたって生み出されるキャッシュフローを積み上げたものです。
 
ESGとは、企業の事業戦略の持続可能性を高め、将来キャッシュフローの持続的成長に作用するものであり、企業が長期的に経営を行う上で対応すべき「課題」だと考えられます。
 
SDGsはその名の通り、持続可能な開発のための「目標」ですから、明確な社会課題の解決に資する商品やサービスを通じて企業自身の成長に直接的に作用するものであり、将来キャッシュフローを創出する製品やサービスが主体となり、直接的な貢献を評価するものだと考えることができます。
 
金田さん:
ESGは金融機関が企業を評価する際の3つの「側面」であり、SDGsは文字通り「目標」だという点で私も同じ考えです。また、サステナビリティは持続可能な「状態」です。
 
例えば、投資家に対して、自社の取り組みをアピールしたい企業は、投資家になじみのあるESGで取り組みを整理した「ESG経営」、国際的な合意に向けて活動していることをアピールしたい企業は「SDGs経営」を標榜すればよいと思います。
 
看板の掛け方は、その企業のパーパスや文化/風土、また経営者の考え方によって異なりますが、規定演技としてやるべきことはほぼ一緒です。
 
例えば、弊社の場合は、「長期」、「グローバル」、「多様なステークホルダー」という視点を包含する「サステナビリティ経営」を掲げており、本業であるITの力を通じて社会課題の解決に取り組むことで社会の持続可能性と弊社自身の持続可能性の両方を高めていくというメッセージを社内外に発信しています。
 
石野:
そのように、ESG、SDGs、サステナビリティを使い分けられている企業は多いのでしょうか?
 
平野さん:
多くはありませんが、大事なのは、将来のあるべき姿を踏まえ、しっかりとしたプロセスを経て自社にとっての重要課題を特定し、中長期的な目標を定めて、そこに向かっていくことです。その際には、ESGやSDGsを含むサステナビリティを事業戦略に統合していくことが必要です。
 
現状は、事業戦略とサステナビリティを統合できている企業はまだ多くはありませんし、SDGsの様なビジネス機会を強調する一方で、リスク管理が十分ではない企業も見受けられますが、全体としては良い方向に向かっていると感じています。
 
金田さん:
社内用語ではありますが、”by IT”と”of IT”という使い分けをしています。”by IT” は、「ITを使って社会課題を解決する活動(=CSV)」を、また、”of IT” は「自社の企業活動が社会や環境にかける負荷を下げる活動(=CSR)と、寄付やプロボノ等で社会投資をする活動(Philanthropy)の両方」と分けて使っています。
 
特に、前者、すなわち、「お客様と一緒に」社会インパクトの高いby IT事例を創ること、これがB2B企業としての本分、一丁目一番地となります。
 
石野:
金田さん同様、我々はコンサルティング会社ですから、我々自身がESG、SDGsにどう取り組むのかと同時に、コンサルティングするお客さま企業自身を、SDGsの文脈からどう変えていくか、抱えるSDGs課題をどう解決していくのか?という2つの軸があります。
昨今はこのふたつ共に社会的な機運の高まりを感じています。

SDGs/ESG対応を進める実務上のポイント
石野:
ここからは実際に進めていく上でのポイントに踏み込んでいきたいと思います。まず機関投資家の目線で平野さんにお伺いします。
 
平野さん:
当社は投資先企業が企業価値向上と持続的成長を実現するための「望ましい経営のあり方」を定めた上で、それを踏まえてエンゲージメントの重点テーマを特定し、優先度が高いと考えられる投資先企業を中心にエンゲージメントを通じてESG課題の解決を働きかけています。
 
「望ましい経営のあり方」では、以下4項目について、当社が特に重要と考える課題と投資先企業に必要な取組みの具体例を示しています。
 

  1. 環境・社会課題への適切な取組み
  2. 資本の効率的な活用による価値創造
  3. コーポレートガバナンス機能の十分な発揮
  4. 適切な情報開示と投資家との対話

 
「1.環境・社会課題への適切な取組み」では、『重要課題の特定』『気候変動』『自然資本』『人権』『多様性と包摂性』『ウェル・ビーイングな社会を実現するための価値創造』『関連するイニシアティブへの加盟等、ステークホルダーとの連携』の7つの事項を示し、EとSの課題の解決を働きかけています。
 
「望ましい経営のあり方」の詳細は当社の「責任投資レポート2021」(P21,22)に掲載しています。企業の皆様が取組みを進める上で参考にしていただければ幸いです。

責任投資レポートでは、野村アセットマネジメントのスチュワードシップ活動に対する考え方、エンゲージメント、議決権行使やインテグレーションの状況など、具体的な活動を紹介しています。
 
石野:
具体的にはどのようにエンゲージメントを進められているのでしょうか?
 
平野さん:
実際に個別企業と対話を行う際には、重点テーマを踏まえつつ、担当アナリストの意見を基に個々の企業の状況を考慮してテーマを設定し、エンゲージメントを実施します。
 
そして、一つのテーマに関して3年を区切りとしてゴールを設定し、そのゴールに至るまでの進捗を管理し、エンゲージメントの実効性を高めています。
 
経営に直結する課題ですので、経営トップやCFO、サステナビリティ担当役員の方々とお話しすることが多く、関連する幅広い方々との対話を通じて、ESG課題の改善を働きかけています。
 
例えば、社会課題の解決に貢献できる事業特性を持ち、有効なM&Aや新規事業により成長してきたあるサービス業の会社に対しては、今後もこれまでの成長軌道を維持できるのかという懐疑的な見方を払拭するため、海外の同業他社の事例も紹介しながら、社会課題解決への貢献の定量化と目標設定を促しました。約1年間継続して対話を行った結果、その企業は事業の一部について社会的インパクトに関する定量目標を設定・開示し、当初の目標を達成することができました。
 
このように当社から働きかけることもありますし、企業から対話要請を受ける場合もあります。最近では企業から、マテリアリティ(組織にとっての「重要課題」)の適切性や統合報告書の内容などに関する問い合わせも増えてきています。
 
金田さん:
サステナビリティ専任部署だけで出来ることではありません。ビジネスを推進する事業部サイドの課題感は重要です。数年後のビジネスを見据えたマテリアリティを考える際に、事業部サイドのフォーサイトは貴重です。(図2参照)
 
図2:マテリアリティの実例

図2:マテリアリティの実例

さらに、経営トップのコミットメントは重要です。弊社も社長のコミットメントのもと、今年の7月に国連グローバル・コンパクトに加盟しました。また、SDGs関連イベントなどの機会を活用し、社長自らが弊社のサステナビリティ経営について情報発信しています。経営トップが腹落ちしていることはとても心強いです。
 
石野:
サステナビリティ経営の専門家である金田さんから見て、こういった企業は優れていると言えることはありますか?
 
金田:
規定演技を超えた、もう一歩先の自由演技に取り組まれている企業に注目しています。
 
まず、サステナビリティに関するルールメイキング・コミュニティに積極的に参画し、そこでイニシアティブを発揮している企業です。サステナビリティ先進企業、国連関連機関、政府、国際NGO等で構成されている、このような“サステナビリティ・コミュニティ”の内部では、現場で起き始めた社会課題、AIなどの技術変化、法制化の動きなどについて、インサイト/フォーサイトに溢れた議論が展開されています。そこで収集した情報を参考にしながら、長・中期経営戦略やマテリアリティをセットし、自由演技を始めている企業群に着目しています。
 
もう一つは、冒頭で頭出しをしましたが、戦略的なPhilanthropy、社会貢献活動を社会投資として取り組む企業です。
 
社会課題を「企業体」として理解し、かつ、その構成員である「社員」が理解することは、社会課題解決型ビジネスを始めるための、前提条件、いわば“ステージ0”です。その重要性を理解している企業は社会貢献活動に戦略的に投資をし、社会課題の解決に向けたアイデアを世界中のNGOやスタートアップ企業から収集し、一緒に解決策を議論する動きを始めています。
 
その後のステージで、社会課題解決型ビジネスを創出し、収益事業化して、企業価値の創造につなげます。PhilanthropyからCSVへの、またCSRへのフィードバックループを形成しています。
 
石野:
肌感覚としては、企業は企業活動を行う場であり、社会貢献をやりたければ社員はプライベートでやるという切り分けが自然とされているのかなと感じています。
将来的な企業価値につながるから、会社として後押しする、というのはとても新しい考え方ですね。
 
平野さん:
投資家から見ると評価は難しいですが、例えば社員が社会貢献活動を行うことが、長期の人的資本の向上に寄与し、その結果経営戦略の持続可能性が高まる、と確認できれば定性評価することも可能です。定性的でも企業のクオリティを評価できるような説明をしていただけると投資家としてはありがたいですね。
 
石野:
ひとつめのコミュニティへの参画についても、なかなか踏み込めない企業もあると思います。何かアドバイスはありますか?
 
金田さん:
身近な“サステナビリティ・コミュニティ”があります。経済界や業界団体が主催するサステナビリティ関連委員会に参加することから始めるのはどうでしょう。弊社も、経団連の各種委員会からは、いろいろと教えていただいています。
 
また、国連グローバル・コンパクトの国内支援団体であるグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンにもイシュー(課題、論点)別の分科会があります。
 
議論するだけでなく、ガイドラインや評価基準を作成するといったプロアクティブな分科会もあり、自社の得意分野と重なれば、ユニークな提案をする、また、他社を束ねる、というようなイニシアティブを発揮するのもよいでしょう。
 
「サプライチェーン分科会」であれば購買部署、「ESG分科会」にはIR部署が、「CSV分科会」には、事業系部署など、それぞれの部署が自らのミッション/パーパスに基づいて分科会に参加し自律的に活動することになれば、会社全体として統合度の高いサステナビリティ経営が実現できるでしょう。
 
石野:
そういう時代において、金田さんが主導されているようなサステナビリティ経営推進部の知見やリーダーシップは、やはり重要でしょうか?
 
金田さん:
例えば、コミュニケーション戦略ひとつとっただけでも、以下の4つについて、全体感を持って推進する必要があると感じています。
 

  1. 社外からの情報収集(例:“サステナビリティ・コミュニティ”への参画)
  2. 社内への情報発信・浸透(例:説明会、社内サイト整備、社員研修)
  3. 社内からの活動情報の収集(例:グループ内や取引先のCSV事例収集や人権・環境・労働・コンプライアンス・社会貢献活動などのCSR情報収集)
  4. 社外への情報発信(例:統合レポート、サステナビリティレポート、ステークホルダー対話)

 
平野さん:
投資家目線から補足しますと、組織・体制は非常に重要であり、執行側に加えて監督する側の体制構築も重要です。投資家は社外から企業を見ていますので、ステークホルダーの代弁者である社外取締役が、経営陣のサステナビリティに関する取組みを適切に監督することが重要です。サステナビリティに関する知見のある社外取締役を選任したり、監督側にサステナビリティ委員会を設ける企業も増えています。
 
金田さん:
おっしゃる通り、執行と監督は重要です。当社では、さらに、それらを補完する組織体として、アドバイザリーボードを設置し、社外のボードメンバーの方々から様々な知見を頂いています。この経営全体に対するアドバイザリーボードに加え、特色のあるアドバイザリーボードを設置しています。
 
昨今、AIの進化が著しいですが、海外では、AIによる差別といった人権問題も起きはじめています。社会デザイン・ソフトウェア工学/法務・倫理/リスクマネジメント・SDGsなど様々な分野の社外有識者からなるAIアドバイザリーボードを設置し、ここでの議論の結果を取り入れながらAIガバナンスの強化に努めています。
 
【信頼されるAIの条件と、AI品質アセスメントの実践】
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/0719/
 
平野さん:
会議体のあり方や役割も開示していただいているのはすばらしいと思います。

これからのESG/SDGsで重要なのは何か?
石野:
最後にESG/SDGsを進めていく上で、今後重要になるのは何でしょう?
 
平野さん:
当社の「望ましい経営のあり方」を参考にしていただきつつ、各企業の置かれている立場や業界、事業内容によっても課題の重要性はそれぞれ異なるため、エンゲージメントを通じて相互理解を深めることが重要です。
 
適切な企業価値評価とエンゲージメントや議決権行使のためには非財務情報開示の充実も重要であり、開示規制等の強化にも対応していく必要があります。
 
グローバルでは、IFRS財団が2021年11月に「ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)」を設立し、非財務情報開示の国際的な基準策定に向けた機運が高まっています。
 
日本でも2021年6月に再改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいてサステナビリティ課題への対応が求められ、また2022年6月には金融庁の「金融審議会ディスクロージャーWG」からは有価証券報告書の非財務情報開示のフレームワーク等が提言されています。
 
例えば、温室効果ガス排出量の2050年ネットゼロ目標は全企業共通の課題ですが、投資家の分析対象が拡大し、気候関連の開示規制が強化される中で、投資先企業にはこれらに対応した開示が求められています。
 
機関投資家の2050年までの投資ポートフォリオ排出量のネットゼロ実現は、企業のネットゼロ達成が前提となります。2050年ネットゼロの実現にはサステナビリティ情報を開示する企業とこれらの情報を分析・活用する投資家の連携が必要不可欠です。
 
石野:
評価の難しい自由演技だからこそ、そのルールメイキングも重要ですね。
 
金田さん:
今後は、個々の活動が生み出す社会インパクト、言い換えれば、その事業が地球や社会の持続可能性に対してどれだけのインパクトを創出しているか、という点について、議論が活性化してくると感じています。そこで、志を同じくする複数の主体と一緒にプロジェクトを進める動きが加速すると思います。そこで、NTTデータは、「PA(Partner Alliance)for Good」という取り組みを始めています。
 
IT企業のNTTデータは、ITインフラを支えるサーバーやストレージ、PCを扱うデル・テクノロジーズ社と、これまでもビジネス上のお付き合いがありました。CO2削減観点からも、供給-調達の関係を通じて一緒に課題を解決していかなければならない関係にありますが、その点も含めた、社会インパクトを高めるための協働スキーム、それが「PA for Good」となります。
 
【SDGs時代のパートナーアライアンス像 ~PA for Good~】
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/0218/
 
企業同士が協業してビジネスを推進する『PA(Partner Alliance:パートナーアライアンス)』。最近はビジネスシーンだけでなく、さまざまなステークホルダーが一体となって大きな社会価値の創出に取り組む文脈でも使われる。今回はNTTデータとデル・テクノロジーズの戦略的PAについて対談を実施。SDGs時代のパートナーシップの在り方がどのように変化しているのか、事例をもとに紹介する。
 
デル・テクノロジーズ社は、対外的なコミットメントと情報開示については、1,000団体のNGOを支援する、10億人に対するデジタルアクセスを進めるというような規模感のムーンショット・ゴール(非常に困難で、前人未到にも見えるが、達成できれば大きなインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦のこと)を設定されています。
 
日本企業だけで行動しようとすると、どうしても小さくまとまってしまいがちですが、このムーンショット発想などは、NTTデータにとっても大きな学びとなります。これからは、このような事業パートナー同士で社会課題に向き合い社会インパクトを高めるケースが増えてくると思います。
 
平野さん:
事業活動を通じて社会課題の解決に貢献している企業は、その関係性を明確に示し、社会課題解決に伴うインパクトを示すことが重要です。こうした事例が増えてくると、より持続可能性の高まりを示すことができますし、社員も理解しやすくなります。投資家目線からも、次の段階として多くの企業に取り組んで欲しいと思っています。
 
最後に問い合わせが増えている非財務情報開示について、お伝えさせてください。
機関投資家が非財務情報を収集する上で、重視しているのが統合報告書です。記載事項の定めがないため、どの様に開示したら良いかわからないという声もよく伺いますが、国内のアワード等を通じて他社事例を参照いただくとともに機関投資家との対話を通じて相互理解を深めることが有効だと思います。少しずつでも取組みを進めていくことが重要だと考えていますので、臆さずに意見交換させていただければと思います。
 
石野:
投資先企業からそういう相談があるということですか?
 
平野さん:
そうなんです、環境・社会課題に対する取組みをどう評価するか、対処すべき課題は何か、といった対話の要請も非常に増えています。株主総会のピークである6月やその前は対応が難しい場合もありますが、できる限り対応させていただきます。
 
石野:
繁忙期を避けてお問い合わせいただければ、ウェルカム、ということですね(笑)
 
長い対談となりましたが、本日はスペシャリストのお二人からSDGs、ESGの歴史的な経緯から、初めて携わる方にとっては難しい違い、実務上のポイントを解説いただき、最後には一歩進めるために大事なことを沢山お話しいただきました。是非携わる方々に活用していただければ、対談者一同嬉しい限りです。
今日はどうもありがとうございました。
 
※本記事はOctoKnotの記事内容を転載しています。
OctoKnotの当該記事リンク:https://8knot.nttdata.com/action/2285100

<プロフィール>
金田 晃一 / Kaneda, Koichi (NTT DATA)
金田 晃一 / Kaneda, Koichi
ソニー渉外部通商政策課、在日米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグ テレビジョンのアナウンサーを経て、黎明期から20数年にわたり、企業のサステナビリティ担当として活躍。ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールティングスに勤務したのち、現在はNTTデータで、サステナビリティ経営の推進に取り組んでいる。国際協力NGOセンター(JANIC)、及び、日本ソーシャル・イノベーション学会の理事も務める。
【リンク】https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/
 
平野 成明 / Hirano, Nariaki (Nomura Asset Management)
平野 成明 / Hirano, Nariaki 平野 成明 / Hirano, Nariaki
野村證券に入社、営業部門を経験後、野村アセットマネジメントに出向し、国内株式のアナリスト業務に従事。その後、国内の公的年金に出向し、アセットオーナーの立場から議決権行使、エンゲージメント等のスチュワードシップ活動業務を担当。現在は野村アセットマネジメントに籍を移し、責任投資調査部にて、国内株式を中心に議決権の行使、企業との対話(エンゲージメント)を行っている。一貫して投資家の立場から実務に携わるスペシャリスト。
【リンク】https://www.nomura-am.co.jp/
 
石野 和俊 / Ishino, Kazutoshi (Rise Consulting Group)
石野 和俊 / Ishino, Kazutoshi
ライズ・コンサルティング・グループ シニアマネージャとして、新規事業、ITを中心に様々な企業のコンサルティングに携わっている。前職は野村総合研究所の金融インダストリー部門に所属、アセットマネジメントに3年の出向経験も持ち、専門知識・経験を持つため金融のテーマを扱うことが「比較的」多い。
【リンク】https://www.rise-cg.co.jp/

2023.02.07