ChatGPTなどによりDisruptされるコンサルティング業界  ~これからのコンサルティング事業、コンサルタントはどうあるべきか?~

「佐藤さん、ChatGPTってすごいらしいですが、うちの業界にどんな影響ありますか?」
「ChatGPT使って何かソリューションを作りたいのですが、何か良いアイデアはないでしょうか…」

 

最近、このような声をよく聞く。

 

当社は、2012年の創業以来、Produce Nextをミッションに100件を超えるDXや新規事業を支援してきた。そこで培った「最新技術の見極めと活用方法」の知見を活かし、参考までにコンサルティング業界での「ChatGPTの影響と対策」をお伝えする。

目次

  • ChatGPTとは
  • 当社が取り組んできたChatGPTなどを活用したコンサルティング
  • ChatGPTなどによるコンサルティング業界のディスラプト
  • Post ChatGPT時代を見据えたコンサルタントの「価値の源泉 」
  • Post-ChatGPT時代を見据えた当社の挑戦
  • 終わりに

ChatGPTとは

ChatGPTは、自然言語処理技術を活用した会話型botで、人間のような会話ができる生成AIの代表的なサービスだ。IT業界を中心に大変注目され、関連するニュースを聞かない日はない。
一方、EUが規制を検討していたり、日本の大手IT企業でも導入していないケースが多かったりすることから、賛否両論があることも事実である。

当社が取り組んできた ChatGPTなどを活用したコンサルティング

当社はChatGPTを2023年2~3月にPoCし、4月からコンサルティング業務に取り入れて高付加価値化・効率化を図っている。「個人情報や機密情報を適切に管理」、「AIの回答を鵜呑みにせずコンサルタントによる検証を徹底」するなどのルールを堅実に守ったうえで運用している。

 

同時に ChatGPTに加え、他社の生成AIである「Bing AI」の使用を始めた。
ChatGPTの自然言語処理AIモデルである「GPT-4」は、推論能力が極めて高く、我々の質問の意図を敏感に察知し、適切な回答を提供する。これは初期仮説構築に大いに役立つが、出典表示やWeb検索機能がないため、情報の正確性を保証するために確認作業が必須となる。
一方、Bing AIはGPT4.0をベースにしつつ検索に特化した機能を持つため、有益な情報をWebから直接引き出すことができる。したがって、仮説検証の第一歩として役立つ非常に便利なツールだ。

 

2023年5月段階では、GoogleのBardやStable AIのStableLMは会話能力がまだChatGPTに及ばないと考えており、当社では利用推奨していない。 しかし、この業界は常に進化を遂げているため、各サービスの今後の動向を注視し、最適な業務活用方法を模索していく予定だ。

 

なお、2023年6月からは、BardのPoCとChatGPT、Bing AI の機能比較を行っている 。

 

図1:生成AIの使い分け

図1:生成AIの使い分け

 

では、具体的にどうやってChatGPTなどを コンサルティングに活用しているのか。
当社は、若手中心に次の5ステップで初期仮説を構築するよう伝えている。

 

  1. プロジェクトの論点設定
  2. ChatGPTに論点を質問する
  3. 重要と思われる回答を深掘りする
  4. 仮説の妥当性を評価する
  5. Bing AIを使い仮説検証する

 

この過程で最も重要なのは「①論点設定」だ。ChatGPTなどに論点作成を依頼しても、現時点でそのまま利用できる論点は生成されない。ここは依然、コンサルタントの腕の見せどころだ。次に重要なのは「③重要と思われる回答を深掘りする 」ことだ。ChatGPTの回答を基に、初期仮説を精緻化・具体化していく作業だ。ここでは、ChatGPTの「文脈を理解する力」を利用する。
例えば、ChatGPTが5つの理由を挙げた場合「2番に関して具体例と成果を教えて」などと入力すると、チャット全体の文脈を理解した上で回答してくれる。つまり、知りたいことを1回だけ質問するのではなく、対話によって深堀りしていくことが重要だ。

 

同様に「④仮説の妥当性を評価する」ことも、仮説の精度を磨くうえで重要だ。経験を積んだコンサルタントなら、自身の知見とクリティカルシンキングを用いることができるため、ChatGPTの回答のどんな部分を慎重に深堀りしたり疑ったりするべきかわかるだろう。しかし、若手はそう簡単にできない。
このようなとき、ChatGPTに対し「上記の回答への妥当な反論は何か?」と入力すると、ChatGPT自身がクリティカルに自分の回答へ反論してくれる。これにより、仮説と反論の両面を見ながら、仮説の筋の良さや、反論への備えを検討し、仮説の妥当性を評価することができる。

 

ChatGPTを用いる際、一般には適切なプロンプト入力(=プロンプトエンジニアリング)が重視されるが、当社はそれ以上に「対話による深堀り」を重視している。

 

仮説が一定程度固まったら、検索に強いBing AIの出番だ。
Bing AIに「〇〇(仮説)は正しいか?」などと入力すると、正誤の回答とその根拠になるURLを提示してくれる。コンサルタント自身はその出所を確認する作業から仮説検証を開始することで、迅速かつ効果的に一定の妥当性を持った初期仮説を構築することが可能となる。

 

参考までに、当社が2023年4月の1か月間、新卒研修でChatGPTを用いた仮説構築を教えたところ、通常は実現までに3~4年ほどかかるシニアコンサルタントレベルの仮説を構築できるようになった人が複数名いた。ChatGPTなどの生成AIは、短時間で高付加価値を提供する一助を担い、今後のコンサルティングサービスを向上させる可能性があるという点で価値あるツールではないだろうか。

 

図2:ChatGPTなどとの対話の仕方

図2:ChatGPTなどとの対話の仕方

ChatGPTなどによるコンサルティング業界のディスラプト

さて、これまでChatGPTなどの生成AIが、コンサルティング業務をいかに効率化するかを紹介してきた。ChatGPTの進化スピードを基に未来を予測すると、コンサルティング業務の調査・分析のような基礎的なタスクのみならず、資料やプレゼンテーションの作成もAIが主導する日が近いと思われる。

 

では、どの程度生成AIによりコンサルティング業務が代替されるかというと、広義のコンサルティング市場の半分程度はChatGPTなどのテクノロジーに代替され、ディスラプトされると考えている。

 

まず、現在のコンサルティング市場の大部分を占める「オペレーション」や「システム開発・運用」は、AIが得意とする分野だ。

 

例えば、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の主要業務であるコンタクトセンターやヘルプデスクは、人間よりもChatGPTのようなAIが、安価にミスなく対応できる時代が近づいている。「人間らしい対話」を求める人々には、AIアバターがリアルで表情豊かに対応することになるだろう。また、IT運用保守、データ処理、バックオフィス業務など、繰り返しの定型作業が主なBPOも、AIが得意とする分野だ。

 

人間と違って、AIによるBPR/BPOは、採用・育成・リテンションにお金も時間もかける必要は ない。常に全ての問い合わせに対してベストプラクティスが用いられる。
これまでは、BPR/BPOにおいて、人間は業務を推進する主役だった。しかし、今後はChatGPTなどに代替され、「人が負債」になる日も近づいているのではないか?

 

ChatGPTはシステム開発・運用の領域でもゲーム制作やExcelのマクロ作成などを実現しており、コーディングはAIの得意分野だと言える。
例えば 、OpenAIとGitHubが共同開発した「Github Copilot」は、自然言語を入力するとAIがコードを自動生成し、プログラミング作業を効率化している。現在、ITエンジニアがAIを補助的なパートナーとして利用し、生成されたコードを確認・修正することが必要だが、単純で大量の開発業務においては、その必要性が低下する日も近い。また、ノーコード・ローコードによる市民開発の進展も単純なプログラミング業務をAIが代替する流れを加速させている。

 
   
それを踏まえると、 ITエンジニアが求められるスキルも変わってくる。
例えば、AIが生成したシステム要件が、本当に理想的にビジネス要件を満たしているか検証する能力や、アーキテクチャを構想する能力などが重視されるだろう。また、人間が創出する価値はユーザ部門やクライアントと討議しながら、戦略→組織→業務→システムと一気通貫で構想策定していく部分などにシフトするだろう。

 

同様に、マネジメントコンサルティング の領域も、システム開発・運用と同様に、高付加価値なタスク以外はAIに代替されて行くと考えられる。

 

図3:Disrupting the Consulting business with ChatGPT

図3:Disrupting the Consulting business with ChatGPT

Post ChatGPT時代を見据えたコンサルタントの「価値の源泉」

ChatGPTなどが既存のコンサルティング市場を大々的にディスラプトしていく中で、コンサルタントはどのようにAIと差別化、あるいは棲み分けができるだろうか?

 

まず前提条件として、AIが担えること は、データに基づく集計・推論に限られる。どんなにChatGPTが優秀であっても、あくまでデータに基づいた回答を提供しているだけだ。 したがって、人間が価値を出し続けるためには、データ化しにくい分野のスキルを磨かなければならないだろう。

 

一般的に、脳に関するデータは短期的には安全・安価・高精度に取得できないと予測されている。例えば、コンサルティングのプロジェクト設計や受注時には、クライアントの言葉にできない悩みや不満 を察知したうえで言語化・構造化し、適切な論点を設定することが求められる。こういった「洞察力」をAIが短期的に担うのは難しく、人間に残された重要な価値の源泉であろう。 
また、プロジェクトにおいては人や組織にビジョンを伝え、モチベーションを喚起し、必要な行動を促す力も重要だ。人・組織を直接動かす「リーダーシップ」が求められる場面もあれば、優れたユーザーインターフェースで行動変容を促す「UI/UX構築力」が必要とされる場面もある。

 

AIは過去データから予測できない非連続な未来を予測することも苦手だ。
具体的には、データに基づかない仮説を立てる「クリエイティビティ」、データではなく経営哲学などに基づく「主観的な意思決定力」、そしてデータで検証できない不確実な状況下での意思決定を促す「信頼性(=クレディビリティ)」のことを指す。

 

これらは短期的にAIが持ち得ない能力のため、今後のコンサルタントに必須であろう。

 

図4:Poat ChatGPT時代のコンサルタントの「価値の源泉」

図4:Poat ChatGPT時代のコンサルタントの「価値の源泉」

Post-ChatGPT時代を見据えた当社の挑戦

コンサルティング業界がディスラプトされていく中、当社はディスラプトを促進し、より 良質で迅速なコンサルティングサービスをクライアントに提供していく所存だ。

 

そして 次世代のコンサルタント育成のために、旧来の枠にとらわれない多様なキャリアパスを用意することで、Post-ChatGPT時代にも市場・クライアントから必要とされる コンサルタントを養成するのが目標だ。そのために、ライズ・コンパスと呼ばれる「自分で、多様なキャリア目標を描き、実現する」ための仕組みや、最先端のテーマのプロジェクトを通したOJTなどを行っている。また、冒頭でお伝えした通り、率先して新しい技術を試し、良い評価を得られた場合には 迅速に業務に取り入れることも企業文化として根付いている。

終わりに

ChatGPTなどの生成AIは、人々の日常生活にも大きな影響を与えうる。
例えば、ChatGPTのGPT-4とは、エンターテイメントや歴史、(2021年までの)時事問題などを語り合うこともできる。この汎用性と自然な会話力は、AppleのSiriが目指したAIコンシェルジュのようなインターフェースになり得るだろう。

 

これを踏まえると、ChatGPTに様々なソリューションを連携させることで、人間が仕事から娯楽まで様々なことを対話しながら行えるようになる。つまり、今後はライフスタイルの多様化がメガトレンドになり得るだろう。

 

こういった最新技術が、PRODUCE NEXTにつながる ように、当社もコンサルティングを通して貢献し続けていきたい。

執筆者

佐藤 司(さとう・つかさ)
PARTNER
DX × Talent Management
外資系戦略コンサルティングファームやコンサルティングベンチャーの創業メンバーとして、戦略立案から実行まで一気通貫の支援経験を積む。また、人材育成・組織開発の事業会社で事業開発も経験。それらの経験を活かし、直近では「攻めのDX」として、デジタルを活用した新規事業やビジネスモデルの戦略策定・立ち上げ、またDX人材のタレントマネジメント支援に従事。 IT、金融、ヘルスケア、小売業、製造業、エネルギー等多くの業界での支援を経験。 アメリカ・ヨーロッパ・アジアの10か国でのプロジェクト経験も持つ。
DX × Talent Managementプラクティスを牽引。