国内物流の直面する課題と求められる変革

「物流」は、論じるまでもなく日本社会/産業を支える社会基盤のひとつであり、企業が自社で生み出した製品=モノを取引先や消費者へ送り届けるために、なくてはならない存在である。
しかし近年、大きな変曲点を迎えつつある。
需要の観点では、直近の新型コロナウイルス流行に伴って消費者の購買行動が大きく変化し、Eコマースの利用急拡大させた。具体例を示すと、2021年の国内電子商取引市場規模は 2019年比で26%増 ※1という未曽有の伸びを見せており、その傾向はポストコロナ期に移りつつある現在も維持されている。このことから「ショッピングは実店舗ではなくネットで気軽に/指先一つで自宅まで送り届けてもらう」という習慣は不可逆的に根付きつつあると考えられる。
続いて、供給の観点では、いわゆる「物流の2024年問題」が変化ドライバーとして不可避であると認識されている。2024年4月からは、働き方改革関連法の施行に伴う「時間外労働時間の上限規制」などが「自動車運転の業務」にも適用されることになり、物流の中核を担う長距離ドライバー1人あたりの長距離運搬が制限されることで、運送会社のドライバー不足や、賃金減少によるドライバーの離職などの発生が懸念されている。
野村総合研究所は、2030年には全国の荷物のうち約35%が運べなくなるという推計を公表した。※2 日本の物流改革は国家として喫緊の課題となっている。
上記のような「物流危機』を鑑み、本稿では物流を取り巻く動向と、それを逆手に取ったビジネスチャンスについて論じる。

目次

■物流業界を取り巻く4つの課題

  1. 2024年問題
  2. ドライバー高齢化問題
  3. 荷主ニーズ多様化/小口化問題
  4. カーボンニュートラル問題

 

■物流DXの取り組み

  • 物流網最適化DX

 

■求められる社会全体での物流変革

  • 荷主との連携
  • 消費者/小売業との連携(店舗受取)
  • 社会システム全体の変革

物流業界を取り巻く4つの課題

冒頭でもふれたが、物流業界を取り巻くビジネス環境は大きく変化しつつあり、これを起因として4つの大きな問題に直面している。本章ではそれぞれの問題について概略とポイントを紹介する。

 

1. 2024年問題
上述のとおり、2024年に改正労基法が施行されることにより、トラックドライバーの時間外労働の年間上限が960時間に制限される。法定労働時間である1,920時間(1日8時間、週40時間)を加えた年間2,880時間を超える労働はすべて法令違反となり、事業者には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」および社名公表の罰則が適用される。
直近の品目別ドライバー拘束時間実績を見ると、農水産品/林産品/鉱産品/金属機械工業品/化学工業品/軽工業品/特殊品の計7業種で2,880時間を超過※3しており、労働環境の改善が急務だ。
また、労働時間時間の短縮はドライバーの収入減少にも直結するため、離職の増加も懸念される(収入源を給与単価増で補う場合は、輸送コストへの跳ね返りが発生する)。
日本ロジスティクスシステム協会のフォアキャストによると、今後も需要増加および供給減少が加速する見通しで、2025年にはトラックドライバーの不足が20万8,000人に達し、重量にして8.5億トンの貨物が運べなくなると予想されている(2030年ではさらに11.4億トンまで悪化する)※4。

 

2. ドライバー高齢化問題
2024年問題に加え、長距離ドライバーの高齢化がドライバー不足に拍車をかける恐れがある。
現在、全産業の40-59歳就業者割合の平均値は約35%だが、運送事業については約45%という高水準となっている。逆に29歳以下は全産業平均の約15%に比べて約10%と低くなっており、健全な次世代育成/世代交代が進んでいないことが見て取れる※1。
以上のことからも、ドライバー不足問題は時間を経るにつれて厳しくなることが予想されている。

 

3. 荷主ニーズ多様化/小口化問題
ECの利用拡大により、宅配便取扱個数は2017年から2021年の5年間で23.1%増加している※5。一方、出荷1件あたりの重量ベースの貨物量では2015年から2021年の7年間で約3割減少しており、これは小口・多頻度の配送が増えていることを意味している※6。
BtoBの企業拠点間で大量の貨物を一括運送するケースに比べ、BtoCは配送先が多岐に渡り、かつ再配送なども発生するため、現場の負荷を高める要因のひとつとなっている。

 

4. カーボンニュートラル問題
別の観点として、昨今、世界的にあらゆる社会活動における温室効果ガスの排出量削減が求められていることが挙げられる。国内でも2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが業界を問わず推進されている。
物流業界も例外ではなく、政府主導でモーダルシフト推進事業の予算が組まれており、産官連携の下で検討が進められており、従来のQCD(=Quality/Cost/Delivery)に加え、E=Environmentへの配慮も強く求められる状況となっている。

物流DXの取り組み

物流各社は2024年問題を始めとする諸問題に対応するため、自社のオペレーション全体の見直しと効率化を継続的に進めている。
特にデジタルテクノロジーの活用がひとつのキーとなっており、本章ではその一例を紹介する。

 

物流網最適化DX
現在、大手物流会社の多くは過去の経験に基づき「ハブアンドスポーク型物流」という体制を整えている。
元はFedEx創業者のフレッド・スミス氏が提唱した方式で、まず中心拠点=ハブに貨物を集中させ、その後エリア別に仕分け、さらに末端拠点で最終仕分けを行うという、段階的な輸送プロセスを取る。
複数拠点間をそれぞれ相互につなぐ旧来の方式よりも、主要拠点への機能集約と路線数の削減が可能となるため、効率性の観点で多くの物流会社が採用してきた。
しかし、近年の荷主のニーズ多様化や小口化(第1章③)に伴い、固定的なハブアンドスポーク型物流は、むしろ効率的で迅速な配送の足かせになりつつある。

 

まず、同方式はハブ拠点に作業負荷が集中するため、ハブ拠点がオーバーフローした場合にボトルネックとなり、ネットワーク全体の効率を落とすという構造的なリスクを抱えている。
加えて、数多く存在する末端拠点では、日々配送すべき荷量のボラタリティに起因して、仕分けや配送のリソースが余るシーンが多く発生してしまっている。
同じ理由で、エリアごとの配送量が変動することにより、貴重な長距離ドライバーリソースを無駄にしてしまう(=積載率が低く、空気を運んでしまう)問題も顕在化しつつある。

 

図1:物流網最適化DX

図1:物流網最適化DX

 

この問題に対し、AIなどのデジタルテクノロジーを活用して物流網の運用計画を最適化させるシステムの導入が検討されている。
具体的には、各拠点の余剰能力を把握した上で、物流網全体のリソース効率が最大化できるように荷物ごとの物流パスを算出し、配送計画を都度見直していく仕組みだ。
デジタルの力を借りて有機的に拠点間をつなげ、ハブアンドスポーク型物流では発生しない「ハブ拠点から末端拠点へ直送する」「エリア別拠点がエンドユーザー向けの仕分けまで全て完了させる」といったイレギュラーな作業/パスを組み合わせることで、柔軟かつ高効率な物流を志向している。

求められる社会全体での物流変革

ここで、第1章で取り上げた物流問題を改めて俯瞰しよう。
最も本質的な課題は「日本社会全体の物流総量の肥大化」にあり、その急激かつ大きな変化に、物流業界の自助努力では対応しきれなくなってきている。
つまり、今は業界の垣根を超えて「社会全体としていかに効率的に荷物を運搬するか/モノを動かさないか」というムーブメントが必要な段階にあると考えられる。
本章では業界を超えた荷物削減の動きの先例をいくつか紹介する。

 

社会システム全体の変革
将来をより見据えた動きとして、デジタルテクノロジーをてことした、物流関連の社会システム全体の変革が志向されている。
その代表例のとして「フィジカルインターネット」という概念がある。
現在は荷主1社がトラック1台を占有するも満載できず、積載率の低下を招くシーンが多数発生している。フィジカルインターネットでは、文字通り荷物をインターネットのようにパケットとして分割、格納し、基幹区間では荷主の区別なく混載して運搬することで積載率向上を実現する。

 

図2:フィジカルインターネット

図2:フィジカルインターネット

 

また、「デジタル空間上での所有権移行」という概念も同じく検討が進んでいる。
現在は商取引に伴ってメーカーから中間業者(商社/問屋)へ荷物そのものを動かし、そこから小売業者へ荷物を引き渡す…という、モノと所有権が一体化されたオペレーションを行っている。
「デジタル空間上での所有権移行」は所有権だけを移管してモノは動かさず、最終的にモノを必要とするエンドユーザーへ所有権が移った際に、始めて物流を行うというアイデアで、物流総量の圧縮につながると期待されている。

2023/04/28