PMO人材・プロジェクトマネジメント人材の育成 ~プロジェクトの成功に向けた人材育成~
「プロジェクトマネジメントを行える人材やスキルが不足している。」
「何とか自社内にてプロジェクトマネジメント人材・PMO人材を育成できないものか?」
これらは近年、プロジェクト型ワークの増加・企業変革ニーズの急増に伴い、どの企業においても耳にするようになった課題である。
特に最近は、働き方や雇用の多様化、リモートワークの増加、 様々な文脈におけるDXなど、テクノロジーの急速な進化を受けて、プロジェクトマネジメント人材ニーズが顕著に高まってきている(図1)。昨今のコンサルビジネス急拡大などは、まさに「プロジェクトマネジメント人材不足の補填」の一端を表していると言えよう。
とはいえ、企業としてもコンサルやSierといった外部リソースの活用頼みをいつまでも続ける訳にもいかない。さらに言えば外部リソースを活用したからといってプロジェクトが成功するとは限らないうえ、コストに見合った効果が出ているのかという懸念もある。
本記事では、自社内で変革プロジェクトを必要とする企業が「プロジェクトマネジメント人材育成」をどのように考えて、どのような手を打つべきかを改めて考察してみたい。
(注)2023年4月24日に一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)から公開された『企業IT動向調査報告書 2023』(P163「図表6-2-2 売上高別 IT組織が重視する人材タイプ(現状)」)に基づき弊社作成
目次
- プロジェクトマネジメント人材育成に必要な3つの要素
- 今後必要となるプロジェクトマネジメントスキル
- 終わりに
プロジェクトマネジメント人材育成に必要な3つの要素
まず始めに、きわめて当たり前かつ基本的な問いを考えてみたい。
「プロジェクトマネジメント人材の育成は何のために行うのか?」
答えは「継続的に自社のプロジェクトを成功させるため」だ。
つまり自社プロジェクトの成功を最終目的とし、この実現に向けて人材育成を行い社員が育つように設計することが重要となる。では継続的に自社のプロジェクトを成功させるためには、どのように人材育成を考えるべきなのか。
図2が示すように、人材育成に必要な要素はプロジェクト外での①Off-JT型育成、実プロジェクトを利用した②OJT型育成、および③プロジェクトマネジメント環境(ソフト面/ハード面)の3つである。
Off-JTやOJTについてはイメージが湧く方も多いだろう。Off-JT研修により、初学者はプロジェクトマネジメントの何たるかを学ぶ。また、ある程度の経験者であればディスカッション形式のOff-JT研修やワークショップにて課題を共有し、解決策を考える場合も考えられる。
一方で、実際のプロジェクトでは、上司・先輩などにOJTを受けてプロジェクトマネジメント実務をこなすことになるのだが、ここで問題が発生するケースが多い。あるいは、その事実を問題視していない企業も多い。
具体的には大きく3つの問題に整理できる。
<問題1> OJTがない
文字通り、Off-JT研修は受けさせるが、企業としてのサポートはここで終わりを迎え、あとは現場に投げ出されてしまうケースを指す。プロジェクトにPMOポジションでアサインされても、やり方などを教えてくれる人がいないため、自力で試行錯誤を行っていくしかない。能力の高い人はこれでも育つ可能性もあるが、多くの人はこれでは育たないし、そもそもプロジェクト自体が上手く進んでいかなかったり、プロジェクトマネジメントが機能しなかったりするケースも多い。
<問題2> プロジェクトマネジメントが求められていない
育成観点でOff-JTを行っても、実際の現場におけるプロジェクトオーナー、あるいはプロジェクトマネージャーがプロジェクトマネジメントの必要性を十分に理解していないケースを指す。たとえOff-JTが上手くいき、メンバーの基礎知識や成長意欲が高まっても、いざプロジェクトに入ると、思った通りのプロジェクトマネジメントができないうえ、実施したことが評価されず、成長停滞や意欲の低減につながってしまい、結果として社内人材が育たないことにもなりかねない。
<問題3> プロジェクトマネジメント環境が整備されていない
問題2と同様にプロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャーのPMOへの無理解に起因し、必要なプロジェクトマネジメント環境(ツールなど)の導入ができない・不十分なケースを指す。
近年は、課題管理やスケジュール管理などに統合プロジェクト管理ツールを導入するケースも増えてきている(※)。特に大規模プロジェクトなどではこれらのツールが適切に導入・利用されていないと、PMOに単調な作業(情報収集や情報更新・連携など)が増えてしまうことになる。これでは、本来重要な業務であるにも関わらず、つまらない作業・価値のない作業という印象を与えかねず、結果としてプロジェクトマネジメント業務が敬遠され、社内人材が育たないという状況に陥りかねない。
上記の問題を見てわかる通り、人材育成ひいてはプロジェクトの成功を実現するためには、単にOff-JT研修を行うだけでは不十分であり、プロジェクト側での対応(OJTとプロジェクトマネジメント環境の両方)が必要不可欠であるとご理解頂けたと思う。
さらに言えば現場(実プロジェクト)における上位職者のプロジェクトマネジメントへの理解が不可欠であり、学んだ人が実際の現場でその学びの成果を発揮・実践できる環境の整備を行っていくことも求められている。
なお、OJTやプロジェクトマネジメント環境については自社内で整備していくことが難しいケースも多いと思われるが、その場合は費用対効果を考えつつ、一時的に外部リソースを活用し、育成を促進させる判断をすることも重要だと考える。
(※)統合プロジェクト管理ツールとは、Jira、Redmine、Backlog、Asanaなど、スケジュール管理、チケット管理(課題管理)、ダッシュボード、掲示板やチャットなど、プロジェクト管理に必要な機能を統合的に提供するツール
今後必要となるプロジェクトマネジメントスキル
前章ではプロジェクトマネジメント人材育成に必要な3つの要素(Off-JT型育成、OJT型育成、およびプロジェクトマネジメント環境)を述べたが、具体的にどのようなスキルが求められるのだろうか。
プロジェクトマネジメントには、世間に良く知られた「PMBOK」が存在し、プロジェクト管理に必要となる各種管理要素、原理原則、パフォーマンス領域などが定義されている。そのため、各企業はこれをベースとしているPMP資格の取得を推奨したり、PMP向けの学習・研修プログラムを取り入れていることが多い。
しかしながら当社はPMO領域のコンサルティングを長年行い、多くのクライアントの課題を聞きプロジェクトを伴走支援していく中で、PMBOKなどのいわゆるプロジェクト管理手法は、あくまでプロジェクトをマネジメントするために求められるスキルの一構成要素でしかないことを肌で感じている。網羅的に記載しているため数は多くなるが、図3に当社が考える「プロジェクトマネジメントに必要な力」を示した。
(※1)スキル分類は、いわゆる「カッツモデル」になぞらえ、C(Conceptual Skills:概念化能力)、H(Human Skills:対人関係能力)、T(Technical Skills:業務遂行能力)として分類。
まず「概念化能力」について説明する。
これは従来のテクノロジーではカバーできず、長年人が担ってきた部分であり、いわゆる頭の良さの象徴であった。しかし、将来的には生成AIなどのテクノロジーがカバーする分野であり、その結果として今後は「課題を見つけ出す力」および「全体を俯瞰的に見渡す力」が求められるようになると考えられる。
次に「対人関係能力」だが、ここは現在もこの先も人に求められるスキルであり続ける。さらに言えば、プロジェクトマネジメント領域におけるパフォーマンス発揮のカギは、この部分にある。つまり「どれだけ知識があっても動けないと意味がない」ということだ。そして、今後はより周りを巻き込み・人を動かす力が求められるようになるだろう。
3つ目には「業務遂行能力」としてのスキルを定義しているが、この部分については近い将来生成AIなどによって広くカバーされるようになるだろう。ただし、これらのテクノロジーはあくまで“ツール”であって、ツールを用いる人間にはこれらを最大限活用する力が新たに求められる。この部分が個人の能力や生産性の差に直結してくるようになると考えられる。
以上、幅広くプロジェクトマネジメントスキルを捉えたが、少なくとも以下の3点を抑えたうえでプロジェクトマネジメント人材の育成を行えれば、間違いなく貴社のプロジェクトマネジメント力は向上し、貴社内でのプロジェクト成功率は向上していくだろう。
- プロジェクト管理手法はスキルの一端でしかない
- 求められるスキルは時代と共に変遷するが、対人関係能力はこの先も必要かつ重要な力であり続ける
- 進化するテクノロジーをいかに活用するか、ここが大きな違いとなってくる
終わりに
プロジェクトマネジメント人材の育成、能力の底上げは簡単なことではない。コンサルティング会社である当社でも、プロジェクトマネジメント人材のケイパビリティを高めるための試行錯誤を経て様々な仕組みや仕掛けづくりを行ってきた。
そういった意味で、事業会社側での課題・悩みについても、同じ目線で知見をお伝えすることが出来るだろう。ぜひお気軽に情報交換からご連絡・ご相談頂ければ幸甚だ。
2023/11/01