DXにおける壁:組織・風土の変革に向けたRISE Way
近年、業種や業界を問わず様々な企業がDXに取り組んでいる。一般社団法人日本能率協会の調査によれば、DXへの取り組み状況について尋ねたところ、約77%の企業が「すでに取り組みを始めている」または「取り組みを始めるべく検討を進めている」と回答(2022年)しており、2020年の調査結果と比べて20ポイントも増加している。特に大企業においては、「すでに取り組みを始めている」が約82%、「取り組みを始めるべく検討を進めている」が約12%と、実に9割以上の企業がDXへの取り組みに対するアクションをおこしていることが分かる。(注1)
DXに取り組む企業が増える一方で、“うまくいかない”という声も多く聞こえてきている。
その理由は、前回寄稿にて触れたように様々な要因がある。
今回はDXの最後の壁となる「組織・風土の変革」に焦点をあて、有効な打ち手について紹介する。
目次
- DXにおけるよくある組織・風土に係る課題
- 組織・風土の変革にはトップダウン & ボトムアップの両輪が重要
- 課題解決に向けたRISE Way:ボトムアップにおける4Stepと社内マーケティングアプローチ
- DX推進事例
DXにおけるよくある組織・風土に係る課題
経済産業省によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(注2)とされており、変革の対象は製品、サービスにとどまらず、組織、プロセス、企業文化にも及ぶ。</br>組織や企業文化、プロセスは、これまで慣れ親しんだ居場所や進め方に例えることができるだろう。それらを変革するということは、言わば突然文化の異なる国や地域で生活することになったようなものだ。元の土地に長く住み、現地の文化が体に染みついていればいるほど、抵抗がある。
では、どのように組織、企業文化やプロセスの変革を伴う真のDXを推進していけばよいのだろうか。
組織・風土の変革にはトップダウン & ボトムアップの両輪が重要
DX推進にあたり何よりもまず重要となるのは、トップダウンによるリーダーシップだ。トップダウンのメリットは、スピード感を持った推進、組織としての一貫性、強力な推進力の発揮などが可能になることであり、企業や組織におけるDXの目的や取り組み内容、スケジュールなどについて、メリットを生かした周知と推進を行うことができる。
他方、トップダウンによる一方的な情報発信のみでは、ミドルマネジメントや現場メンバーが情報を正しく理解したうえでDXを推進していくことは難しい。なぜなら、例え情報を発信したとしても、ミドルマネジメントや現場メンバーまで十分に届かない、届いても正しく理解されない、正しく理解しても行動に移されないといったいくつもの障壁が存在しており、推進力を鈍化させてしまうためだ。
これらの障壁を取り払い、DXを推進させるために必要となるのがボトムアップによるアプローチである。
課題解決に向けたRISE Way:ボトムアップにおける4Stepと社内マーケティングアプローチ
トップダウンによる情報発信後、各社員の代表的なプロファイルモデルを踏まえた4Stepのボトムアップフォローを行うことで、ミドルマネジメントや現場メンバーの推進力がより強固になる。当社は、消費者向けのマーケティングアプローチを社内の組織変革に活用する独自のメソッドを活用しており、ここではそのポイントとなるエッセンスをご紹介していく。
■4Stepのボトムアップフォロー
【Step1】目的を知る/理解する
【Step2】やり方を学ぶ
【Step3】実行する
【Step4】続ける/拡げる
【Step1】目的を知る/理解する
“やる目的が分からない”、“情報を受け取っていない”メンバーに対して、経営メッセージの共有、具体的な行動指針・目標設定の支援、自己成長の機会であることを説明するといったフォローを実施する。
【Step2】やり方を学ぶ
“やり方がわからない”メンバーに対して、マニュアル・ガイドラインの整備、トレーニングの実施、問い合わせサポートなどのフォローを実施する。やり方が分からずに作業を一時停止し、そのまま実施せずにやる気をなくしてしまう、忘れてしまうという経験は皆さん思い当たると思う。「問い合わせる」という作業の煩わしさでストップすることがないよう、問い合わせは“いつでも”、“簡単に”できる仕組みを構築することが重要である。
【Step3】実行する
“やる時間がない”メンバーに対して、メンバーの部門長を巻き込むことによる時間捻出、簡易実施による成功体験の提供などのフォローを実施する。部分的であっても自身や顧客にメリットが生まれる体験をすることで、実行することが楽しくなり、デジタル技術を活用するスキルもレベルアップしていく。
【Step4】続ける/拡げる
“続けるモチベーション・メリットがない”と考えるメンバーに対して、インセンティブ導入、継続的モニタリング・動機付け、スキルアップの説明といったフォローを実施する。自身や顧客にメリットがあることを認識し、能動的に推進するようになれば、【Step2】のトレーナーにも成り得るため、組織全体における推進力は加速度的に増加する。この段階に至るまでは一定の時間を要するため、企業としては辛抱が必要なところでもあるが、この壁を乗り越えたときに「DXの実現」という成果が見えてくる。
他方で、DXに関する情報発信を受け取った者の姿勢は、大別すると賛成する者、反対する者、中立・興味がない者の3種類が存在し、この姿勢やデジタルリテラシーなどによって採るべきアプローチが変わってくる。通常の消費者向けのマーケティングと同様、DXの取り組みについての社内向けマーケティング活動として捉え、社員のプロファイルモデルを整理することで、有効な打ち手を導き出すことができる。
例えば、中立・興味がない者には、これまで説明したとおり【Step1】から順序良くフォローしていくことがベストであろう。賛成する者には【Step1】は必要なく、【Step2】以降のフォローを必要に応じて実施すれば推進力が発揮される。反対する者には、【Step4】のフォローを実施し、まず本人や顧客が享受できるメリットを伝えることで、賛成する者や中立・興味がない者に姿勢を変えることが有効と考えられる。受け取り手の姿勢によって実施するフォローの順序を考慮する必要はあるが、このように、社員のプロファイルモデルに応じた丁寧な4Stepのフォローを実施することで、現場メンバーの推進力向上が期待できる。
■DX推進事例
次に、当社が取り組んだ大手通信事業者様のRPAを核にした全社DXプロジェクト事例を紹介する。
同社では、数年前にもコンサルティングファームを活用してトップダウンでのDXに挑戦していたが、現場からの反発があり、途中で頓挫した経緯があった。しかしRPAなどのデジタル技術・ソリューションを軸に今度こそDXを推進したいとのことで当社にご相談を頂いた。
まず過去のDX推進がなぜうまくいかなかったのか?どのようにすればDXできるのか?を分析した上でプロジェクトに取りかかった。結果、成功のためのポイントはボトムアップによる意識改革・納得感の醸成であると考え、この新たな風土・カルチャーをどのように作っていくかを重要なテーマとしてプロジェクトを推進した。クライアントとの討議・検討を通して単に新技術を導入するだけではなく、意識改革を行わない限りDX推進はうまくいかないという核心を、明らかにした。
課題の革新を共有し、プロジェクトを進めていく中で、最終的に業務効率化や組織の風土・意識改革などの成果を徐々に創出していくことに成功した。
■最後に
当社は、2012年の創業以来、Produce Nextをミッションに100件を超えるデジタル技術を活用した業務改革、DX/IT構想策定から実行支援等のプロジェクトのご支援を提供してきた。今回ご紹介した内容は、DXを成功させるための有力なオプションになると考えている。当社では、今後も引き続きさまざまなプロジェクトを通しての実践的なトライ&エラーを繰り返しながら、企業のDXの現在地を正しく把握するための診断から対応策の立案、実行支援と独自のメソッドを研究・開発していく予定である。
参考文献 :
(注1)日本能率協会「日本企業の経営課題2022」調査結果速報【第1弾】, 2022-11-4
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000016501.html
(注2)経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf